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“消えた天才騎手”田原成貴「鈴木さん、久しぶりですね」因縁スポーツ紙記者と再会で…「ブライアンは終わったな、と」三冠馬を大いに語る
text by
鈴木学Manabu Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/06/01 11:02
田原成貴とマヤノトップガン。ナリタブライアンの好敵手として立ちはだかったからこそ感じた、三冠馬のリアルな強さとは
「やっぱり勝負事はナメちゃいけないよね。競馬を結果論で語るなという人が多いけど、結果論で語らないといけないところがある。負けたほうとしては『こうしていれば勝ったな』という思いがあるから」
阪神大賞典のあとで、田原さんはマヤノトップガンを管理する坂口正大調教師から「実は急仕上げやった」と言われたという。
「大阪杯(3月31日)に使う予定を阪神大賞典(3月9日)にしてもらったのは僕。馬主さん(田所祐)に『天皇賞を使うんだったら、今のトップガンは引っ掛かるから2000メートル(の大阪杯)を使ったあとの3200メートルはつらい。当時の大阪杯はGIじゃなかったからね。GIだったら逆に2000メートルのほうが競馬をしやすいから大阪杯に行きましょうと言っていたと思うけど……。でも、GIじゃないし、2000メートルのあとの3200メートルではより引っ掛かる。『天皇賞を勝つんだったら阪神大賞典を使ってくれ』とお願いしたんですよ」
阪神大賞典の最終追い切りに乗った時の感触は、年度代表馬のタイトルを決定づけた有馬記念を制した時と同じくらいと思うほど良かった。
「返し馬も良かったし……。『よし、これやったら早めに突き放したら、本調子ではないブライアンは追いついてこられないだろう』と。それでちょっと早めに(仕掛けて)いったんですよ。でもちょっと差された。差されたということは、ちょっと仕掛けが早かったということ。すごく悔やんでますよ」
ブライアンは終わったな、と
レースが終わってから、坂口調教師の口から出たのが「ちょっと急仕上げだった」という言葉だった。
「急仕上げだったら、もっと僕は(仕掛けどころを)我慢していた。急仕上げプラス俺が強気の競馬をしたぶん、最後のクビ差(負け)になった。マヤノトップガンの全能力を発揮すれば、俺がスパートしたところからでもゴールまでもつと思ったんですよ。(でも)ちょっと止まった。止まったということは、僕の仕掛けが早いということなんです。坂口先生のいう『急仕上げ』と僕の強気の競馬。両方マイナスでしたよね。だから、急仕上げでなければ勝っていたと思いますよ。あの仕掛けでいっても。トップガンが90の仕上がりなら今のブライアンだったら追いつけないと思ったんですよ」
田原さんは僕の質問を待たずに続けた。
「結果論で言うと『ナメたのかな。強気すぎたかな』と。強気すぎたぶん、仕掛けが早くなった。止まったのは仕掛けが早かったから。仕掛けが早いといっても、ひと呼吸かふた呼吸ですよ。ふた呼吸早かったな、と思う。僕のミスです。ただ、昔のブライアンだったら、3馬身くらい(マヤノトップガンを)かわしていたのかもしれない」
田原さんはその時、有馬記念で抱いた思いを再認識したという。
「ブライアンは終わったな、と」
<つづく>