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オリンピックへの道BACK NUMBER
「コンビニでお菓子を凝視し、食べた気に…」引退から2年、寺本明日香が明かす“食事制限に苦しんだ現役時代”「気合と根性で乗り切っていた」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTadashi Hosoda
posted2024/06/06 11:00
体操女子日本代表として長く活躍し、現在は至学館大学の女子監督を務める寺本明日香
「アキレス腱を切る前はずっと右足の方が悪かったんですよ。『左足アキレス腱断裂』と大きく報道されたから、そのイメージが世間的にあると思うんですけど、実際には右足の外反母趾と足首がずっと痛かったですね。なので右足と左足を2:8のバランスでずっと蹴っていたら反対の足のアキレス腱を切ったんです」
東京五輪の選考会に間に合わせるためには最終手段もとった。
「アキレス腱を切ってから、体操ができない状況が半年続きました。その間に右足も治った感じだったんですけど、オリンピックの選考会前ぐらいにまた外反母趾がすごく痛みだして。指で踏み込むときに踏み込めなくなったのでステロイドの注射を親指のところに打ちました。ドクターから『あまり打たない方がいい、打つと組織が弱くなるから、その後に影響がある』と言われました。でもそんなこと言ってられないし、東京オリンピックが最後だからと言って、2回打ったんですよ」
苦しんだ食事管理「コンビニでお菓子全部を凝視して帰る」
必死に取り組んだものの、東京五輪の代表にわずかに届かなかった寺本が「もやもやしていました」というのは無理もなかった。
「東京オリンピックが始まった7月の終わり頃から4カ月くらいかな。周りから『体操まだ続けるの?』と言われればやりたくない、『やめるの?』と言われてもやめたくない。どうしたいか自分でも分からない状態でした。練習も行きたいときに行って、行きたくないときは行かない、みたいなわがままな感じで」
左足アキレス腱断裂以降の葛藤を語りつつ、心身の苦しみはそれだけではなかった。
例えば食事の管理だ。
「コロナの頃からは生活の部分まで細かく管理してやっていたんですよ。食事も。ただ勉強はいいことかもしれないけれど、勉強すればするほど『世の中にある食べ物は全部ダメ』『添加物はダメ』みたいな感覚になってきて、無駄な情報も入れてしまったかもしれないです。管理のしすぎで疲れて、ストレスがすごくありましたね」
次のエピソードは管理の徹底ぶりを物語っている。
「コンビニに行ってもお菓子にはお金を使わないと決めていたので買わなかったです。行ったらお菓子コーナーを見るんですよ。お菓子全部を凝視して帰る。コンビニだけじゃなくデパ地下に行ってケーキを眺めて帰る。そんな行動をしていました。見ることで食べた気になるというか。終わったら食べたいなと思いながら見ていました。早く引退したい、体操を早くやめて自分の好きな生活がしたいって思っていました」