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何度も怒られた清水邦広「でも、永野さんは愛がある」“空気をピリッとさせるリベロ”永野健38歳が男子バレー界に残したもの「絶対メダル獲れる」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byPanasonic PANTHERS
posted2024/05/14 11:01
今季限りで現役を引退したリベロ永野健(38歳)。パナソニックパンサーズのタイトル獲得に数多く貢献し、日本代表でも活躍した
先輩だろうが、コーチだろうが、相手が誰であれ納得できないことはストレートにぶつける。特にスパイカーはその対象になることが多く、清水邦広(37歳)もよく雷を落とされたうちの一人だった。パナソニックだけでなく日本代表でも長い時間を過ごしてきた清水は、「(永野に)めちゃくちゃ怒られてきた」と振り返りながらも、厳しい言葉や態度の中に優しさと愛情があったと笑みを浮かべる。
「日本代表で、僕と福澤(達哉)が中心だった頃、勝てない時は自分たちのせいだと思っていました。でも永野さんから『俺はリベロだからポイントを取ることはできないけど、得点を取る清水や福澤にはプレッシャーがかかるから、その分決まったらめちゃくちゃ喜ぶし、フォローするから思いきり打って来い』と言われて、すごく救われた。ラリー中も永野さんが二段トスを上げる場面が何度もあって、それこそ何千本と永野さんのトスを打ってきましたけど、永野さんのトスには『決めてくれ』と魂がこもっていた。込めた思いは言葉にしなくてもわかるし、僕がミスをしたり、ブロックされると『ごめん、俺(のトス)が悪い』と言うだけで絶対責めない。永野さんがいてくれたから、苦しい場面でも逃げずに勝負し続けることができました」
サーブレシーブの範囲も広く、勝負所でディグを上げるシーンも数え切れぬほどに見た。清水が言うように、点が入れば誰より喜び、両手を握りしめたガッツポーズで決めた選手、つないだ選手に向けて叫び、闘志丸出し、と言わんばかりの笑顔で鼓舞してきた。
「終わってねーぞ」コートに響いた永野の声
思い返せば、さまざまな場面やプレーが浮かんでくるが、永野を語るうえで欠かせないのが“声”だ。決して大げさではなく、コートを見ずとも、どこに永野がいるか、すぐにわかる存在感があった。
味方であれば何より頼もしく、敵になると何より厄介。Vリーグで幾度となく対戦を重ね、日本代表では苦楽を共にしてきた米山裕太(39歳/東レアローズ)が回顧する。
「競り合った状態から抜け出して、こっちはイケイケ、相手はシュンとしている。勝っているほうからすれば一気に畳みかけみたい。そういう時に『終わってねーぞ』と声を張り上げるのが永野なんです。誰だって心の中では“終わってない”って思っていますよ。でも負けている時にそれを言葉にして、伝えるのはすごく勇気がいる。簡単そうに見えるかもしれないけれど、みんながみんなできることじゃないんです。でもそれができる、“やる”のが永野だった。周りに勇気を与える存在でした」