- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥がネリを撃破した勝負のポイント…じつは4Rの“挑発”にあった? 元世界王者・飯田覚士が驚いた2つの理由「いや、本当のモンスターですよ(笑)」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/05/09 17:02
ネリを6回TKOでくだした世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥。注目の一戦を元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した
「尚弥選手は(2022年12月のポール・)バトラー戦でも同じように挑発っぽくしましたけど、それはあまりに前に出てこなかったため。だからまったく意味合いが違う。ネリ選手に対して優位に立っているとはいえ、弱らせきってもいないし、危険なパンチだってまだある。挑発が相手を奮い立たせることにもなりかねないためリスクはあるわけです。
ここには深い意味があったのではないか、と。つばぜり合いの最中、自分が頭ひとつ完全に抜け出すために敢えて強気な自分を出そうとしたんじゃないかと僕は考えています。陸上の長距離選手が、勝負するときにスパートを掛けていくじゃないですか。あの挑発はネリを置いていくスパートの合図だと感じたんです」
勢いあまっての挑発などではない。
決着は時間の問題なんだとネリを追い込んでいく。それまで比重としては大きくなかったボディーへの打ち込みも、精神的な圧力を伴うことになる。
「やっぱり左ボディーを打つときがネリ選手としては左フックを合わせやすい。でもそうさせないのは、尚弥選手とすれば打ってこないタイミングも含めてつかんだんでしょうね。パンチがきてもかわせる安全圏内も分かっているから、相手のパンチをもらうことなく自分のパンチを当てていける。それを明確に示したラウンドにもなりました。リスク承知で挑発しつつ、圧倒してネリ選手を置き去りにしていくような感覚が僕にはありました」
ネリは“玉砕覚悟”に切り替えた
実際、次の5ラウンドはネリが前への出方を強めている。このまま引き離されてしまえば試合が終わってしまうという危機感がそうさせたに違いない。
「パンチが効いてくると普通なら弱っていくなかで、ネリ選手は“やるかやられるか”くらいの玉砕覚悟の戦い方に切り替えました。待ちのボクシングにするなどダメージを回復させる方法がなかったわけではないと思うんです。でも怖気づかず、前に出てきたネリ選手の姿を見てこの一戦に懸ける思いというものが本物だったことは伝わってきました」
終わってみれば「尚弥選手は本当に凄い」
井上の術中にネリがハマっていく。確実にフィニッシュへの足音が近づいていた。