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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエは危険だ…恐怖心がある」ネリが思わず語った本音…取材記者が見た敗者ネリ“意外な素顔”「井上尚弥は過大評価されている」発言のウラ側
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/05/09 17:15
5月6日、井上尚弥vsルイス・ネリ。筆者は来日から2週間、ネリを取材した
ボクシングはスポーツであると同時に、興行でもあるのだ。たとえば、ネリがドーピング違反や体重超過をした試合も「山中の負け」が公式記録として残る。極めて理不尽に思えるが、ボクシングファンの見解は「ネリは山中を倒した男」で一致していた。
その点、ネリのダーティーなパブリックイメージは興行と相性がいい。試合前に相手を煽る発言――いわゆるトラッシュトークも話題作りに貢献する。「イノウエという天才に挑めるだけで幸せ」なんていう当たり障りのないコメントは求められていない。「イノウエは過大評価されている」と不遜に言い放つネリは、矛盾をはらんだボクシングの魅力を体現しているようだ。
「恐怖心がある」ネリの“本音”
少し遡って4月21日。ロサンゼルスから12時間のフライト後、羽田空港にネリが姿を見せた。あらためて165cmという小柄な体躯を確認する。近寄りがたさは感じない。3人の娘を引き連れ歩く姿、どこか学者を思わせるような分厚いメガネ、ボソボソとした話し方、ファンにサイン対応する様子まで、すべてがイメージとかけ離れていた。
「思ったよりはコンパクトなのかな。全体的に。大きくは感じないな」
冒頭23日の公開練習を視察した井上真吾トレーナーの言葉が、ネリの印象をシンプルに物語る。
ネリの本音はどうか。これまで井上と対峙したボクサーはリングに立った瞬間、その圧力に怖気づいたと記者たちは証言する。ネリは本当に井上を「過大評価だ」と思っているのか。あるいは、歩み寄る敗北に抗うための虚勢か。
公開練習を終え、次の取材機会である試合2日前の記者会見を待つ。その間、これこそネリの偽らざる本音ではないかという記事に出会った。英国人記者、エリオット・ウォーセル氏によるインタビューの中で、ネリはこう語る。
「一つはリスペクト、もう一つは恐怖心である。(中略)井上が危険であることは知っている。リスペクトする必要があると同時に、恐れてはならない。さもなければ激しい攻撃にさらされる」(英ボクシング誌「BOXING NEWS」現地5月2日号)
「(私は)勝っていると思う」発言
空港と公開練習で、じつはネリが自ら発言することが二度あった。どちらも通訳が訳し終えたと見計らった直後に、伝えきれていない意図を補足するように語ったのだ。