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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「初回に奪ったダウンが災いした…」井上尚弥に真っ向勝負したネリの“誤算”とは? 英国人記者が“悪童”を再評価「この階級で最後の強敵だった」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/05/08 11:05
井上尚弥にダウンを喫し、苦悶の表情を浮かべるルイス・ネリ。防戦一方ではなく、モンスター相手に果敢に攻める姿勢を示した
井上のほぼ唯一の欠点は、時にアグレッシブになり過ぎて隙ができること。ネリは昨年、リングマガジンの年間最高試合に選ばれたアザト・ホバニシャン(アルメニア)戦でも示した自身のパワー、攻撃力に自信を持っており、井上が隙を見せればそこにつけ込めると考えていたはずです。実際に第1ラウンドはそういった展開になりました。
それでも井上はとても聡明で、リング上で様々なことができるボクサーです。初回に不覚のダウンを喫した後、すぐに適応し、以降はネリの左パンチを浴びなくなり、そうなってしまうとネリにはもう攻め手は残っていませんでした。
結局のところ、技術的な面でネリは井上には遠く及ばなかったということ。井上の方が優れたボクサーであることは明白であり、実力上位のボクサーが順当に勝ち残ったというのが結論になるのでしょう。
前編でも触れた通り、初回に奪ったダウンはもしかしたらネリにとって災いに働いたと見ることもできるかもしれません。
「愚行が忘れ去られることはない。ただ…」
ネリは今後、“井上からダウンを奪った選手”として記憶されていくことになります。井上はタフネスも備えており、ノニト・ドネア(フィリピン)の強打を浴びて右目眼窩底骨折を経験してもフロアに沈むことはありませんでした。ネリは今回、誰もできなかったことを成し遂げたのです。その後、総合力で上回る選手に対処できなかったのは仕方ないことであり、落ち込む必要はないと考えます。
2017、18年、ネリが山中慎介(帝拳)との対戦で起こした事件には私も落胆させられました。禁止薬物で陽性反応が出た時点で、当時の私がマネージング・エディターを務めていたリングマガジンはネリからリングマガジン王座を剥奪したのです。
さらに再戦でも体重オーバーをやらかしたのであれば、山中を愛し、尊敬していた日本のファンがネリに激怒したことも理解できます。おかげで今回の興行は“リベンジ”という観点から盛り上がりをみせました。試合後、ネリが退場時に日本のファンとハイタッチをしているシーンも映し出されていましたが、これまでに犯した数々の愚行が忘れ去られることはないでしょうし、その点は私も同じではあります。
その一方で、ネリがワールドクラスの選手であることは改めて示されたとは思います。