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「自分は賞味期限が切れた人間」引退・入江陵介が1年前に明かした“どん底時代”…それでも34歳まで水泳を辞めなかった理由「パリ行きたかった」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byKiyoshi Ota/Getty Images
posted2024/04/04 17:00
現役引退を表明した入江陵介(34歳)。3月の日本代表選考会がラストレースとなった
5度目の大舞台への心残りはある。
「現役最後のレースを日本で、たくさんの方々の前で泳ぎ切ることができて何よりも幸せでしたが、パリの地で引退したかったという気持ちは強かったですね」
代表選考会後、東京タワーの目の前を通りかかったときには「エッフェル塔が見たかったな」としみじみとした気持ちに浸ることもあった。
「最近すごく考える時間が多いんですよ。先日も友人と食事に行った帰りに2時間ぐらい考えながらボーっと歩いたり……やっぱりパリに行きたかったなという気持ちは未だにありますね」
地獄を味わったリオ五輪「賞味期限が切れた」
0歳の頃からベビースイミングで水泳をはじめ、中学に入ってから背泳ぎに本格転向。2006年、当時高校2年生での日本代表デビュー以来、入江は常にトップを走り続けてきた。ただ、その道のりがすべて順風満帆だったわけではない。
2012年ロンドン五輪では100mで銅、200mで銀、4×100mメドレーリレーで銀と3つのメダルを獲得しながらも、その後、大きな虚無感に襲われた。2016年リオ五輪では100mで7位、200mで8位、4×100mメドレーリレーでは5位入賞を果たしたものの、メダルはゼロに終わった。特に得意とする200mのレース後には涙をにじませながら、「自分は賞味期限が切れた人間かな」と苦しい胸の内を吐露する場面もあった。
その頃の心境を昨年、入江はこう語っている。
「(リオ五輪は)すごく地獄を味わったオリンピックでした。本当に水泳が嫌いになるというか、水泳をみたくないというぐらい打ちひしがれていて。辞めたいという気持ちが強くなっていましたね。多分、誰かに辞めていいよって言われたらすんなり辞めていたかもしれません」
ただ、現役を続けるか否か、その頃の葛藤が長く競技を続けることに繋がった。