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坂本花織「むしろ4位で良かったかも!」大逆転で世界選手権3連覇…日本人初の偉業“舞台ウラ”「あなたは、今まで、そうして勝ってきた」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byJIJI RRESS
posted2024/03/27 17:04
日本人初の快挙となるフィギュアスケート世界選手権3連覇を果たした坂本花織
「フリーは最終滑走ではなくなるので、待っている間に緊張感が増すことはないと思います。むしろ4位で良かったかも! もうポジティブにいかないと。ここからは切り替えたもん勝ちなので、笑顔で頑張ります!」
フリーまでは、翌日の練習と、本番朝の公式練習と、2回の練習がある。坂本の表情に悲愴感はなく、むしろ楽しそうに練習していた。中野コーチが振り返る。
「これまでは『ジャンプ1本も抜かずに通せ』と言っても、なかなかやれずにいました。でもショート後の2日間は、本人自ら、1本も休まずにやるようになっていました。少しは大人になったのかなと思います」
「こうやって勝ってきた」と言わしめる演技
フリーの本番前にそんなに疲れて大丈夫なのか、というくらい、本気の練習を繰り返す。その姿を見た中野コーチは、坂本に言った。
「あなたは、今まで、そうして勝ってきた」
迎えたフリー。心の中に、ショートとは違うたしかな自信があった。
「今日は、これぞ試合だなという緊張感でした」
演技冒頭の滑りだしで、氷に足が取られてフラつくシーンがあった。
「本当に怖かったです、あれは心臓に悪い。でも最初のダブルアクセルを降りたらいつもの流れだったので、『これはいけるな』と思って、集中力も切れませんでした。やっぱり練習を積んできた量かなと思います」
3回転ルッツ、3回転サルコウと次々に着氷。1つのブレもなく、たやすくジャンプを重ねていく。まさに練習どおり。「こうやって勝ってきた」と言わしめる演技だった。
得点はフリー149.67点、総合222.96点で首位に。残る3人に大きなプレッシャーを与えた。
ショート2位のイザボー・レヴィト(米国)が会心の演技を見せ、首位のヘンドリックス(ベルギー)と3位のイ・ヘイン(韓国)はミスを連発。その様子を、坂本は暫定上位3人が待機する“グリーンルーム”で観ていた。
「レヴィトちゃんが良い演技をした時は、本当に焦りました。ショートは接戦でしたし、『自分って基礎点どれくらいやったっけ』『自分はフリー何点やったっけ』って。頭の中でいろんな数字がテュルルルルって回転して。最終的に自分の優勝が決まったときは、いつものように最終滑走をしてキス&クライで点数聞くよりもホッとして、肩の荷が下りました」
「めっちゃ感動しました」
期待され、重圧を背負い、葛藤し、逆境から手にした金メダル。その授賞式では、地元モントリオールの合唱団による生歌での『君が代』が流れた。