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坂本花織「むしろ4位で良かったかも!」大逆転で世界選手権3連覇…日本人初の偉業“舞台ウラ”「あなたは、今まで、そうして勝ってきた」
posted2024/03/27 17:04
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
JIJI RRESS
世界中のアーティストが集まる、芸術の街モントリオール。3月の外気はマイナス10度を切る、カナダ東部の都市だ。世界選手権(3月20−24日)の会場となったベル・センターは連日、“氷上のアート”を求める観客で埋め尽くされた。
大会3日目の女子フリー。世界選手権3連覇のかかった坂本花織が、リンクに立つ。ショートはまさかの4位発進。しかし表情に迷いはなかった。
すり鉢状の会場は、観客の声援や拍手が、天から降り注ぐように選手のもとに集まる構造になっている。ジャンプを成功するたびに、歓声のボルテージが上がり、それが振動となって坂本に伝わっていった。
「連続ジャンプのあと、すごい会場が沸いて…。『その盛り上がりに気持ちが乗ってしまうと空回りして失敗してしまうな、むしろ自分の感情を抑えよう』という一心で、途中は表情が険しくなっていたと思います。最後のスピンを終えて、やっと『よっしゃー』という気持ちを爆発させました」
フィニッシュポーズを決めると、そのまま氷に両膝をついて、座り込んだ。鳴り止まない拍手が時間の流れを止める。会場の誰もが、今こそがクライマックスであると信じて疑わない、異様な熱気に満ちていた。これからショート上位3人の滑走を控えているにもかかわらず、だ。
ショート4位からの大逆転。その3日間を振り返った。
全日本3連覇と“カオリ一強の時代”
今シーズン、坂本はかつてない順調なスタートを切った。GPファイナルで優勝、全日本選手権では3連覇達成と “カオリ一強の時代”を築き上げていた。
ところが、モントリオール入りしてからは、明らかにジャンプに苦戦していた。
「ルッツがダメだとフリップが行けて、またはその逆。1本ずつならほぼ100%の確率で跳べるのに、いざ曲が鳴ると、せっかく跳べるのに『無理かも』って自分で思って、跳べない方向に持っていってしまうんです」
この練習パターンの場合に本番がどうなるか、坂本は頭の片隅で理解していた。
「1つのミスでここまで変わるんだな」
自分の練習の原点ともなった試合を、こう紐解く。