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スカウトが酷評した高校生ピッチャー「あんなフォームじゃとらへん」“無名だった”野茂英雄10代の挫折…職場でも説教「はよ仕事覚えろ」 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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posted2024/03/03 17:02

スカウトが酷評した高校生ピッチャー「あんなフォームじゃとらへん」“無名だった”野茂英雄10代の挫折…職場でも説教「はよ仕事覚えろ」<Number Web> photograph by KYODO

1989年ドラフトで史上最多8球団の指名を受けた野茂英雄。契約金1億2000万円、年俸1000万円、当時としては破格の条件で近鉄へ

 ある投手は「オレたちの給料が上がらないのは、実績のない野茂に出しすぎたせいじゃないの。冗談じゃないよ。プロで1勝もしてないヤツに1億円以上も払うのなら、そのぶんをこっちにまわせと言いたいね」なんて公然とルーキーに噛み付いたが、どんなヤツが来るのかと思えば、野茂はキャンプの新人歓迎会で、先輩に注がれるビールを飲み続け、トイレで便器を抱えて酔いつぶれていた。でっかい体で無愛想に見えて、可愛いヤツやないか。同僚に連れられ好物の寿司屋にいけば、食べる量も凄まじかった。ウニ、トロ、イクラ、ネギトロの4種類だけをひたすら食べ続けるのだ。ファミコン好きで、競馬ゲーム『ダービースタリオン』にハマり仲間と盛り上がり、契約金でトヨタ・ソアラを一括払いで買って、寮住まいの選手を乗せて球場までドライブだ。

 普通のありふれた21歳の青春がそこにあったが、本職では別次元の活躍を見せる。春先には「ボクはウエート・トレーニングは苦手なんです」なんて敬遠していたのが、オープン戦で打ちこまれると、「体を作らないとプロでやっていけないと思うので、ウエートを徹底的にやります」とコンディショニングコーチの立花龍司に頭を下げた。

開幕直後は批判されていた

 開幕直後こそ勝ち星に恵まれず、評論家からは球種の少なさや投球テンポの悪さまでを批判されるが、4試合目のオリックス戦で、日本タイ記録の17三振を奪い2失点完投でプロ初勝利。以降は投げれば二ケタ奪三振の快刀乱麻の投げっぷりで“ドクターK”と称され、藤井寺球場にはKボードを掲げて応援するファンが詰めかけた。球団もこの盛り上がりに便乗して、打者に背中を見せる独特な投球フォームのニックネームを募集。決定したのが竜巻を意味する“トルネード投法”である。

 なお、プロ初奪三振はデビュー戦の初回無死満塁の場面で西武の四番バッター清原和博から奪ったものだが、1年目の最終成績は18勝8敗、防御率2・91、287奪三振。あの江夏豊を上回る三振奪取率10・99の日本記録を樹立した。ルーキーイヤーから最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率、ベストナイン、新人王、MVP、沢村賞と怒濤の八冠獲得の快進撃だ。

長嶋茂雄に明かした「大リーグにいきたい」

 世間もそんなニュースターを放っておかず、野茂はコニカの世界最小・最軽量カメラ「ビッグ・ミニ」の広告に「デッカイ手をしてデッカイ仕事をする人もいれば、小さなナリして大きな仕事をするカメラがある」と異例の原寸大の“手だけ”で登場。

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