酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「山川選手、頑張って」ファンの声、球場外周に“山川穂高の顔”はないが本人は守備練習で…“テレビに映らない”ソフトバンクキャンプ風景
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2024/02/17 11:01
守備練習に励む山川穂高
今年が勝負の年であろう。ローテーションの維持は最低限のミッションだ。小久保監督も見守る中、長い腕を振って、他の投手とはミットの音が違う剛速球を投げ込んでいた。
スチュワート・ジュニアを挟む形で右に又吉克樹、左に東浜巨、中々の眺めだ。
又吉も東浜もときおりアナリストと言葉を交わしつつ、手元のタブレット端末を見ながら投げていた。2人とも自分が投げる球の回転数や変化量などを一つ一つチェックしているのだろう。
報道陣の後ろには観客席が設けられているが、お客は30分程度の入れ替え制になっている。そうしないと、ブルペン見学を希望するお客をさばききれないくらい、お客が詰めかけている。確かにこんなに近くでプロの投手の投球を見る機会はめったにない。春季キャンプの醍醐味はブルペンにある。
「山川選手、頑張って」の声もかかっていた
メイングラウンドに戻ると、打撃練習が行われている。ケージに入った山川穂高のフォルムは遠目でも一目でわかる。連日、猛烈にバットを振っていると伝えられていたが、この日もスタンド入りを連発していた。それも超特大の当たりだ。昨年3月、WBCの壮行試合前のバッティング・プラクティスで見た大谷翔平の打撃を思い出す。
満員の観客席からはスタンドに打球が飛び込むたびに、ため息と大きな拍手が上がった。これは、アウェーの風吹きすさぶ山川にとっては、何よりの励ましになっていることだろう。
「山川選手、頑張って」
こんな声もかかる。
彼が野球ファンの信頼を裏切ったのは間違いないところだ。そしてそれは彼自身も言う通り「野球で穴埋めができる」類のものではないのも事実だろう。しかし、今、山川穂高は「できることを一生懸命にやっている」ということだけは言えるだろう。
周東の走塁練習にも大きな歓声が
打撃練習が行われているグラウンドでは、走塁練習も行われている。「ワンアウトランナー一塁、バッター右打者」とコーチから声がかかる。一塁で身構えた周東佑京がダッシュする。みるみるその後姿が小さくなって二塁を回るころからトップスピードになり、あっという間に三塁を駆け抜けた。WBC準決勝メキシコ戦で、代走に出て、前の走者の大谷翔平をあわや追い抜くかと思わせた「脱兎の走り」は、まさにこれだったのだ。周東にも観客席から大きな歓声と拍手が起こった。
キャンプ場内には河津桜も咲き、まさに「球春そのもの」である。公園内のあちこちで上着を脱いで駆け回る子供の姿があった。
周東だけでなく、チーム全体もここから急加速してシーズン開幕を迎える。
つづいて訪れた西武のキャンプでは、山川の人的補償としてチームを移った甲斐野央の姿も目にした――。