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ワリエワのドーピング騒動、処分決定後も残る“多くの謎”「なぜ個人順位とポイントは繰り上がらない?」猛反発のロシアは今後も異議申し立てか
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2024/02/06 11:01
4年間の資格停止処分が決まったロシアのカミラ・ワリエワ
この問題を調査したRUSADAは昨年1月、ワリエワに「過失はない」との判断を発表した。世界反ドーピング機関(WADA)は根拠の提示をRUSADAに求める一方で、その判断を不服としてCASに提訴したのである。CASは昨年9月に本人に事情聴取の公聴会を行い、ワリエワにドーピング違反があったことを認めて4年間の資格停止と21年12月以降に出場した大会の失格処分を決めた。北京オリンピック開催中は、「要保護年齢」を理由に出場を許したCASだったが、今回は一転して成人並みの厳しい処分を科した。もっともロシアがウクライナ侵略の五輪憲章違反で国際大会から締め出され続けている限り、彼女の処分は国際的には影響がないと言える。
ここまでが、ワリエワのドーピング違反事件の要約である。
五輪団体戦、ロシアは失格にならず
CASの発表があったその翌日、ISU(国際スケート連盟)が保留になったままだった団体戦のメダルについて公式発表をした。当初の予想では優勝したロシアが失格となり、銀メダルのアメリカ、銅メダルの日本、4位のカナダがそれぞれ繰り上げになるというものだった。だがISUが下したのは、ロシアチームは失格となったワリエワのポイントだけを引き、残り3種目のポイントの合計でロシアは銅メダルに格下げという結論だった。
確かにロシアの選手全員がドーピング陽性だったわけではない。だがここで問題にされたのは、チームは順位繰り上げになったのに、なぜか女子の順位とポイントは繰り上げにされていないことだ。
なぜ団体戦女子の順位は繰り上げされなかったのか?
ワリエワが失格になったなら、本来なら団体戦の女子の1位はSPが樋口新葉、フリーは坂本花織、2位はSP、フリーともにカナダのマデリーン・シザスになる。シザスの順位が上がった分の2ポイントをカナダチームに加算すると、ロシアより上になるのだ。
当然ながら、カナダスケート連盟は猛反発。「ISUの判断に不同意を強く表明する。あらゆる手段を使って意義を申し立てる」と連盟のHPで声明文を発表した。興味深いことに、ISUの現在の第二副会長はカナダ人のブノワ・ラボワ氏だが、彼は現在までこのISUの決断について沈黙を保ったままである。
なぜISUはこんな半端な決断を下したのだろうか。
「ロシアもいずれは国際大会に戻さざるを得ないので、表彰台に残すことでロシアとの緊張感、孤立化を緩和させる意図もあったのでしょう」。ある米国記者はそう見解を述べた。