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F1平川亮、F2宮田莉朋…F1から撤退したトヨタが今年、フォーミュラ最高峰に再びドライバーを送り出す理由
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2024/01/12 17:00
昨年11月のアブダビGPを訪れた平川。2024年はマクラーレンのリザーブドライバーを務めつつ、トヨタからWECに継続参戦する
現在トヨタが参戦しているオンロードレースの最高峰は、F1ではなくWECだ。
トヨタもかつてF1に参戦していたことがあった。2000年代にコンストラクターとしてF1にエントリーした8年間だ。このときトヨタは車体やエンジンの開発だけでなく、世界に通用するドライバーの育成にも力を入れ、08年に中嶋をウイリアムズからF1にフル参戦させると、翌年の09年終盤2戦には自チームで小林可夢偉を起用した。
だが、09年のシーズン終了後にトヨタはF1からの撤退を発表。その後、トヨタがル・マン24時間レースを含むWECへ参戦、中嶋や小林を起用すると、トヨタが育成するドライバーはF1ではなくWECを目指すようになった。
“モリゾウ”の思い
9月23日に鈴鹿で行われた平川のリザーブドライバー起用に関する記者会見で衝撃的だったのは、その場にトヨタの豊田章男会長が列席していたことだった。豊田会長は09年にトヨタの社長としてトヨタのF1からの撤退を最終的に決断した人物。F1撤退を発表した社長がその後、F1が開催されている会場を訪れることは、この世界では異例だった。
記者会見に同席した中嶋は、こう説明する。
「今回の話はトヨタがF1をやるとかやらないという話とは関係なく、F1を目指すドライバーを応援したいという思いから出てきた話。ドライバーが高みを目指すことに対して、トヨタとしてもそれを応援したい。これはトヨタというよりもモリゾウさんの『(F1を目指すトヨタ系の)ドライバーたちを応援したい』という思いから実現した話だと理解してください」
「モリゾウ」とは、豊田会長のニックネームだ。ただし、このニックネームは単なる愛称ではない。「豊田章男」はトヨタの社長や会長であるのに対して、「モリゾウ」はレーシングドライバーとして使われる。豊田会長がモリゾウの名前で耐久レースやラリー大会に参加していることは有名だ。
豊田会長はなぜ「トヨタの会長」としてではなく、「モリゾウ」の名前で2人の発表に関わったのか。その理由を知るためには、15年前のF1からの撤退発表の記者会見を振り返る必要がある。
記者会見で撤退の理由を尋ねられた豊田会長(当時は社長)は、こう言ってF1からの撤退に理解を求めた。