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35歳で“まさかの戦力外→育成契約”…「ほんとは服飾デザイナーになりたかった」ロッテ・石川歩の昔話「自信なんて全然なくて」がプロ76勝の軌跡
posted2023/12/28 17:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
JIJI PRESS
オフの朝はスポーツ新聞の記事に驚いて、いっぺんに目が覚めることがよくある。
千葉ロッテ・石川歩投手、戦力外通告。それも間違いなく、このオフの朝のショックの1つだった。
ちょっと頭がはっきりしてくれば育成契約で、退団や引退するわけじゃないんだろう……ぐらいのことは察しがつくのだが、やはり学生野球の頃にブルペンでその全力投球に向き合って、ドラフト1位でプロに進んでローテーションの一角で投げた投手なので、私の中ではちょっと「自慢」みたいになっている。
2014年に10勝8敗で新人王に輝いてから、ロッテひと筋10年で76勝を挙げて、最優秀防御率にWBC日本代表にも選ばれている石川投手。
思い入れも違うから、こういう時のショックは、けっこう大きいのだ。
中部大時代の石川投手の印象は…?
中部大・石川歩投手とブルペンで向き合ったのは、彼が4年生の時だったと思う。
秋の終わりだったか、春の初めだったか、みぞれの降る寒い、寒い日の午後。確か、テレビ番組での取材だった。
当時の善久裕司・中部大監督が、同じ早稲田大野球部のOBで、以前から石川投手の本格派右腕としての素質について教えていただいていた。
ストーブをガンガン焚いてもまだ寒いぐらい監督室に、ヌーッと(失礼!)入ってきた石川投手の青白い小顔を、今もはっきり覚えている。
「いや、自分なんて、富山の田舎で野球やっていただけなんで……甲子園出たわけじゃないし、体も細いし、自信なんてぜんぜんなくて……」
謙虚とか、そういうレベルじゃない。自分の野球に対する確信のなさを、正直に話してくれている。好感が持てた。
だいじょうぶ! 君のポテンシャルなら、時間をかけて体を作って経験を積めば、上のレベルで絶対投げられる。あまり気が進まない雰囲気の石川投手の背中を押すようにしてブルペンに向かったものだ。