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箱根駅伝“走れなかったキャプテン”たちの悲哀…青学大・原晋監督が流した涙「神林には10区を…棄権しても、予選会からやり直したっていいんだ」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byWataru Sato

posted2024/01/04 11:02

箱根駅伝“走れなかったキャプテン”たちの悲哀…青学大・原晋監督が流した涙「神林には10区を…棄権しても、予選会からやり直したっていいんだ」<Number Web> photograph by Wataru Sato

元青山学院大学キャプテンの神林勇太。2021年の箱根駅伝は仙骨の疲労骨折で走ることが叶わなかった

「ほんと、笑い話にできたのは最近のことですね。それこそ競技を引退してから。いまの職場の方はみな事情を知ってくれているので、むしろイジりネタにしてくれて有り難いです」

 気持ちの整理がつくまで、かなりの時間を必要としたことがうかがえる。

原監督の願い「神林には10区を…棄権しても構わない」

 2021年の箱根駅伝では、青山学院大の主将、神林勇太の名前がなかった。11月時点での取材で、神林はこう話していた。

「今年は往路で勝負できたらと思ってますが、もしも僕が前回と同様、9区に回ったとしたら、チームとしては万全だと思ってください」

 神林は12月29日の区間オーダーの発表の時には、補員に入っていた。1月2日、往路にも神林の名前はなかった。ああ、これなら9区に回るんだろうな……と思っていた。チームとして万全なのだろうと想像していたのに、青学大は往路で12位と出遅れた。なにか、歯車が嚙み合っていなかった。なにかがおかしい……と思っていたら、3日にも神林の名前はなかった。神林が走ったのは、9区の給水地点だけだった。青学大は総合4位に終わり、原晋監督と限られたメンバーがフィニッシュ地点の大手町に戻ってきた。事情が分かったのは、原監督と神林に話を聞いてからである。原監督は、思いを吐き出すようにこう話しだした。

「神林は12月に仙骨を疲労骨折していたんです」

 MRI検査で骨折が判明したのは12月28日のことだった。そして30 日のミーティングで、原監督は部員を前に涙を流しながらこう話した。

「神林には10区を走ってもらいたい。もしも品川の新八ツ山橋で立ち止まって、棄権してしまっても構わない。来年、予選会からやり直したっていいんだ」

 原監督はどうしても神林に走って欲しかったという。

「コロナ禍のなか、目標を見失いそうになりかねない1年でした。肉体的にも、精神的にもチームを引っ張ってきたのは神林でした。これは、神林のチームなんです。だからこそ、私は彼に走って欲しかった」

 この監督の言葉に反応したのが神林本人だった。

「自分が走らなくても、青学は十分強いです。青学は優勝するチームですし、復路のメンバーが強いのは監督がいちばん分かってるじゃないですか。チームのために後輩を走らせてください」

 神林の思いを受け、原監督は神林に給水係を頼むことにした。

【次ページ】 “55年ぶりの箱根駅伝”立教大学キャプテンの思い

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