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「予想は井上尚弥選手のKO勝ち。でも…」タパレスに敗れて引退、勅使河原弘晶が明かす“特別な感情”「タパレスは僕の夢を全部奪いましたから」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2023/12/25 11:03

「予想は井上尚弥選手のKO勝ち。でも…」タパレスに敗れて引退、勅使河原弘晶が明かす“特別な感情”「タパレスは僕の夢を全部奪いましたから」<Number Web> photograph by Uhyon Cho

今から2年前の2021年12月、東洋太平洋スーパーバンタム級王者としてタパレスに挑んだ勅使河原弘晶。井上尚弥のスパー相手も務めた勅使河原に話を聞いた

 あれだけ没頭したボクシングからは完全に離れた。ただし、タパレスが23年4月、WBA・IBF王者だったムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を下し、2団体の世界チャンピオンになったというニュースには興奮した。そしてタパレスは今、あの井上尚弥と4団体統一をかけた大一番の舞台に上がるまで出世した。はるか遠くに上っていったライバルの姿は、かつて世界を目指した男の目にどう映っているのだろうか。勅使河原は「“たられば”って嫌いなんです」と前置きしてこう答えた。

「魚をさばきながらときどき思うんですよ。オレ、こんなところで何やってるんだろうって。あのとき僕が勝っていたら、タパレスがいま寿司職人を目指して魚をさばいてると思うんです(笑)。ボクシングの1試合って大きいですよね。僕があと2つ勝っていれば、尚弥選手とやるところまでいけたわけじゃないですか。でもそのあと2つが本当に大変なんですよね」

タパレスしか応援しないですよ(笑)

 タパレスは寿司職人にはならず、世界チャンピオンとして井上との統一戦を迎える。「心情的にタパレスを応援したくなるのでは?」と水を向けると、勅使河原はいたずらっぽい笑みを浮かべて即答した。

「いやいや、タパレスしか応援しないですよ(笑)。もちろん日本人として尚弥選手に勝ってほしい気持ちはあります。けど、それ以上にタパレスは僕のボクシングの夢を全部奪ったボクサーですから。お前の拳にはオレの人生も乗っかってるんだぞ、というのはすごい思ってますね」

 予想を聞かれれば「井上のKO勝ち」と答えるしかない。それでもなお、自分のボクシング人生を終わらせたタパレスには、堂々とモンスターに立ち向かい、あわよくばひと泡吹かせてほしいと心から願っている。平日の26日はもちろん仕事だ。有明アリーナには行かない。ただ、もし時間が許すのであれば、厨房でこっそりスマホ観戦しようと思っている。

勅使河原弘晶(てしがわら・ひろあき)

1990年6月3日、群馬県生まれ。少年院で輪島功一の著書を読み、ボクシングを始める。2011年プロデビュー。WBOアジアパシフィックバンタム級王座、OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級王座を獲得した後、2021年12月にIBF世界スーパーバンタム級王者への挑戦権が懸かった決定戦でマーロン・タパレスと対戦し敗北。2022年に現役引退、現在はマレーシア・クアラルンプールでの寿司屋開業を計画し、銀座の高級寿司店で修行中

 <前編もあわせてお読みください>

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