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小学生の藤井聡太はプロ相手に「意外と全然勝てなかった」師匠・杉本昌隆が振り返る、“将来の名人”豊島将之との初対局
text by
杉本昌隆Masataka Sugimoto
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/12/23 06:06
師匠・杉本昌隆はトップ棋士にお願いをして、少年時代の藤井聡太と対局をしてもらった。その結果は意外なものだったという
「二つの人格の出会いは、二つの化学物質の接触のようなもの」
一度出会えば、もうその前の状態には戻りません。「知ってしまう」からです。
二人の才能からすれば、いずれ公式戦の大舞台で対戦することは必然です。
ならば、早く出会わせてぶつけてみたい。藤井にはきっとなんらかの「化学反応」があるだろう。そしてそれは豊島さんにとっても同じだと。
人との出会いには、間違いなく大きな影響がある。とくにその人が未完成であるほど、本物に触れることが大事ということです。
藤井はけっこう負かされていました
その当時の記憶では……あの藤井も意外と勝てないんだな、というのが第一印象です。私が予想していたよりも全然勝てておらず、誰と対戦しても、藤井はけっこう負かされていました。
意外でした。もっと善戦すると思っていたのです。
当時の豊島七段と対戦した時の藤井は初段でしたから、さすがにそれは勝てなくても仕方ないと思いましたが、三段で東京に連れていった時は、私はもっと善戦できるつもりでいました。それが、結局ダブルスコアくらいの差をつけられて負け越してしまいました。
ただ、対戦相手の立場で考えれば、キャリアや経験値がまったく違う。みんな、若くても二十代ですから、棋士としてここまでやってきた自負がある。奨励会三段の十二、三歳の子なんかに、たとえ練習上のこととはいえ負けたくない、負けるわけにはいかない。そういう意味でも、掛け値なしの本気で戦ってもらえたことがわかります。
よい意味での脅威を感じた
その経験は、藤井が誰を相手にしても臆さない胆力を鍛えるうえでの一助になったでしょう。
ちなみにその折も、藤井の「読むスピードが速い」という点に関しては、みなさん一様に感心していました。
あの頃はまだまだ弱かったのでしょう。豊島さんなどは、「自分の十二歳の時より全然強いですね」なんて言ってくれましたが……。
今にして思えば、第三者の棋士が見た時の感想は「強いけれど、まだ大したことないね」というレベルだったのです。経験が足りず、まだまだ粗い。そんな段階でした。
だからこそ、藤井が奨励会の三段リーグを一期抜けした時、かつて対戦相手となってくださったみなさんは、「よい意味での脅威を感じた」と口を揃えたのです。
<「まさかのダメ出し」編とあわせてお読みください>