プロ野球亭日乗BACK NUMBER

“私費”2億円を投じた新球場が完成! 筒香嘉智はなぜ、そこまで少年野球に力を入れるのか?「イレギュラーに対処するのは、僕の野球にも…」 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

PROFILE

photograph byYasushi Washida

posted2023/12/05 17:05

“私費”2億円を投じた新球場が完成! 筒香嘉智はなぜ、そこまで少年野球に力を入れるのか?「イレギュラーに対処するのは、僕の野球にも…」<Number Web> photograph by Yasushi Washida

「YOSHITOMO TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」の竣工式で施設のお披露目と挨拶をした筒香嘉智

 2017年に中学生時代に所属していた堺ビッグボーイズの小学生チーム「チーム・アグレシーボ」のスーパーバイザーに就任すると、翌18年1月のイベントの取材でメディアを通じて「勝利至上主義からの脱却」を訴えた。その後も自著の『空に向かってかっ飛ばせ!』(文藝春秋)や外国特派員協会での会見、またさまざまなイベントを通じて少年野球や中学生、高校生を取り巻く野球環境が果たして選手の健康を守り、将来の成長に結びつくものとなっているのかを訴え、改善への提言を行なってきていた。

筒香が天然芝にこだわった背景

 そうした活動の延長線上にこのスタジアムと施設はあるわけだが、もちろん器ができただけでは何も進まない。そこで筒香がオーナー、実兄で体育教師の経験もある裕史さんが代表となって、新たに小学1年生から6年生までを対象に立ち上げたのが「Atta boys」というボーイズリーグ所属の少年野球チームだった。

 裕史さんによるとこの「Atta boys」というチーム名(筒香や関係者の発言を聞くと『アラ・ボーイ』と聞こえる)は、アメリカの野球スラングからとったもの。素晴らしいプレーや全力プレーを見せた選手に「頑張ったね」「よくやったぞ」という意味で、監督やチームメイトがかける掛け声で、メジャーリーグの選手の間でも使われるという。そんな名前からもこのチームが目指すスタイルが伝わってくるものだ。

 そして筒香が費用がかさんでもどうしても天然芝にこだわった背景は、できるだけケガのリスクを軽減した中で、子供たちが思い切った練習ができること。お互いが「アラ・ボーイ!」と声がかけられるようなプレーができる環境を作るという思いがあったからだった。

 もちろんこのチームから「世界に羽ばたく選手が出てくれる」こともチーム設立の大きな目標の1つだが、ただそれだけではないと筒香は力説する。

「僕自身は野球選手になることだけがゴールではないと思っている。小学生の頃から自分で考え、自分で行動を起こせるようになることで、大人になったときに色んな選択肢の連続の中で、競争の中で色んなものを勝ち取る人間作りができるようになるといいと思っています。世の中に出て、仲間と一緒に素晴らしい社会を作っていく。そういう土台作りができるようにしていきたい」

 それが筒香が私費を投じてこのグラウンドと施設を作り「Atta boys」を結成した目的なのである。

 そう考えるといまの筒香の姿こそ、「Atta boys」の子供達だけでなく、全国で少年野球に励む子供たちにとっても、様々なことを考える1つの鏡ではないかという気もする。

「イレギュラーに対処するのは、僕の野球にも当てはまる」

 2020年から始まったメジャー挑戦は決して平坦な道ではない。今季は1月にテキサス・レンジャーズとマイナー契約を結んでメジャーでのプレーを目指したが、6月下旬には自らオプトアウトの権利を行使して自由契約に。8月1日に1度、独立リーグ、アトランティックリーグの「スタテンアイランド・フェリーホークス」と契約。同21日にはサンフランシスコ・ジャイアンツとマイナー契約して2Aを経て9月17日からシーズン終了までは3Aの「サクラメント・リバーキャッツ」でプレーした。

 その間に日本の球団からもオファーを受けたが、自らの夢を諦めることなく米国でのプレーを選択し続けてきた。そしてこのオフも再び「サクラメント・リバーキャッツ」とのマイナー契約を結んで、そこからメジャー昇格を目指す道を選択した。

【次ページ】 マイナーでしか学べないことも一杯ある

BACK 1 2 3 NEXT
#筒香嘉智
#サンフランシスコ・ジャイアンツ
#横浜DeNAベイスターズ

MLBの前後の記事

ページトップ