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「ヒクソン・グレーシーとも親交があるんだ」日本人女性指導者が在籍…ブラジル柔道NGOの愛がスゴい「JUDOの哲学、精神性に魅せられた」
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byHiroaki Sawada
posted2023/11/25 18:38
施設内の道場で、市内の柔道大会に出場して獲得したメダルを手に
「私が柔道を習っていた道場には、様々な社会階層の人がいた。大会に出場すると、非常に貧しい家庭の出身の選手とも対戦した。
柔道を通じて、私はブラジルには自分とは全く異なる階層の人たちがいることを知った。そして、彼らと交流するうち、柔道を通じて恵まれない人々の役に立ちたいという思いが沸々と湧き上がってきた。『畳の上でも外でも、黒帯の人材を育成する』というのが私の信条となった」
――なるほど。2000年、ラケルとラファエラを初めて見たときの印象は?
「彼女たちは、私が指導していたロシーニャ本部ではなくシダージ・デ・デウス支部へ入った。この支部で指導をしていたジェラウド・センセイから、『すごい姉妹が入ってきた。全くの初心者だが、身体能力が高い。ストリートで喧嘩に明け暮れていたから、闘志が凄い。それを畳の上で表現できたら、大変な選手になる。将来、必ずブラジル代表に入る逸材だ』という知らせを受けた。すぐ見に行ったが、確かに2人とも素晴らしい素質の持ち主だった」
柔道という日本生まれのスポーツを心から愛し…
――そして、ジェラウド・センセイの言葉通り、その後、実際に2人ともブラジル代表に入ったわけですね。ただ、ラケルは「すぐに柔道が好きになった」そうですが、ラファエラは「練習でも遊んでばかりで、いつも注意を受けていた」と語っています。
「そうだね。ラファエラは、柔道の神髄を理解するまでに少し時間がかかった。でも、本気で練習をするようになったら、たちまちブラジルの、そして世界のトップクラスの選手になった」
――ただ、2012年ロンドン五輪ではまさかの反則負け。心無い人たちから「だから黒人はダメなんだ」といった人種差別的な中傷を受けました。
「あのような誹謗中傷は、絶対に許せない。しかし、失意のどん底から見事に立ち直ったラファエラを褒めてやりたい。彼女は私の、レアソンの、ブラジルの、そして柔道の誇りだ」
柔道という日本生まれのスポーツを心から愛し、五輪メダリストでありながら柔道を通して貧しい子供たちを援助するという無償の活動に生涯を通して取り組む——。
1881年に嘉納治五郎が柔道を創始し、その翌年、東京の下町に講道館を設立してから140年余り。柔道本来の精神を具現したような誇り高き男と日本から見て地球の反対側で会い、彼の崇高な哲学を聞いて、全身が震えるような感動を味わった。
<第1回から続く>