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「計量前に天下一品のラーメンを…」元世界王者・石田順裕はなぜ“過酷な増量”でヘビー級に挑戦したのか?「グラップラー刃牙の影響で(笑)」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNumber Web
posted2023/11/12 17:03
中量級で世界のトップボクサーと渡り合った石田順裕が、キャリア晩年の「ヘビー級転向」の真意を明かした
前代未聞のヘビー級挑戦「計量前に天一を食べて…」
そんな石田が打ち出した次なる一手がヘビー級進出だった。石田が主戦場としてきたミドル級のリミットが72.57kgで、ヘビー級は90.72kg超。100kg以上は当たり前で110kg、120kgの選手もいる階級である。ヘビー級に挑戦した理由が興味深い。
「日本王者の藤本京太郎選手の試合を見て『オレ、勝てるわ』って思ったんですよ。だったら口だけじゃなく、やったら面白いなと。注目もされるじゃないですか。漫画の『グラップラー刃牙』の影響もあって、体重に関係なく自分が一番強いと証明したかった。10kg差があろうと勝ってやるよ、みたいな。ちょっと頭がぶっ飛んでいるんですけど(笑)」
無謀とも言えるヘビー級進出のプロジェクトは、過去に類を見ない“増量”から始まった。普段は81~82kgの体重を90kg以上にする。そう決めたものの、増量は減量以上に過酷だった。
「どれだけ食べても84~85kgまでしか増えない。それでも1日5食、食べられるだけ食べて増やしました。喘息みたいになるし、心臓に負担がかかるし、もう大変でした。計量の前に天下一品のラーメンを食べて、水をガブガブのんで93.6kg。何とか半年でここまで持っていきましたけど、ちょっと無理はありましたね」
藤本との試合はノンタイトル8回戦で行われ、石田は105.5kgの相手に77-75、77-75、77-76の小差で競り負けた。だが、石田はここからヘビー級戦で2連勝。そして藤本と日本ヘビー級王者のタイトルをかけて再び争い、ジャッジ2人が96-94、96-95で藤本、もう1人が96-95で石田という際どい判定で敗れた。
「ボクシングは単純に体重が重い方が強いわけじゃない、スキルがあれば全然できるんだよ、というところを見てもらいたかったんですけど、ちょっと伝わらなかったかもしれないですね。京太郎選手も強かったですし……」