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派手な髪色、ネイルもオシャレ…等身大の大学生でも《学生最速》大ケガから復帰の青山華依が示す“次世代スプリンター像”「来年は髪もバチバチに…」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byAFLO
posted2023/11/04 17:00
昨年4月の日本学生個人選手権100mで青山が記録した11秒47は現役の学生トップタイムだ
「上手く着地できなくて、歩かなきゃと思っても地面から起き上がれない。その時点では脱臼なのかなと思ったんです。でも、すぐに病院に行ったら前十字靭帯断裂と言われて……。これまで大怪我をしたことがなかったので、知識もなくて、あまり実感が湧かなかったんです。
受け入れられなかった……というより、どこか『ああそうなんだ』と他人事みたいな感じで。伊東先生から『同じ怪我をした選手は他にもいるから復帰できる』と励まされたのを覚えています。でも、私自身は現状がよく分からず、妙に淡々としていました」
3月に靭帯の再建手術を受け、翌日から歩行の訓練が始まった。まずは自力で歩くことを目標とし、約1カ月の入院期間を経て松葉杖なしで歩けるまで回復。退院後は、秋の復帰を見据えて数カ月単位で解禁される動きが決められた。
術前にあった筋力を取り戻すための基礎トレーニングから始まり、ウォーキングを経て、6月上旬に担当医からジョグを再開する許可が出た。
「その時は久しぶりに走れたのがすごくうれしくて。でもまだ筋力が戻っていなくて耐えきれないので、そこは少し怖いなという不安もありました。でも、やっぱりうれしい、楽しいという気持ちのほうがずっと上回っていましたね」
一回の練習で走れるのはわずか10分。もちろんスピードを出すことはできない。それでも、ようやく「走り」を取り戻した喜びはすべてに勝るものだった。
同じ怪我に悩まされた先輩のアドバイスで「涙」
青山にとってもう一つ励みになったのは、女子やり投元五輪代表の海老原有希(現・国士館大コーチ)に出会ったことだった。海老原も国士舘在学中に右膝半月板を損傷。競技人生を通じて怪我に悩まされながらも、日本記録を4度更新するなど、長く日本女子やり投界をけん引する存在だった。
日本選手権の会場でふたりを引き合わせた伊東氏は「彼女が泣いているのを見たのはあの時が初めてでした」と言う。青山は照れくさそうに振り返る。
「なんかホッとしたんですよね。今まで同じ怪我をした方とお話する機会もなくて、今後のことも全く見えないし、この筋力が落ちた脚で本当に走れるようになるのか、という不安もありました。でも、海老原さんと色々お話しをして『そこまで動けているなら絶対に大丈夫だよ』とすごく嬉しい言葉をいただいて。今まで耐えてきたつもりじゃなかったんですけれど、安心した気持ちが感情として出てきたんだと思います」