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プロ野球PRESSBACK NUMBER
ドラフトウラ話《阪神1位指名》「まさか自分が…」指名の瞬間、なぜ本人から“表情が消えた”? そのとき現地記者が見た“広島ドラ1” の気遣い
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/10/30 11:04
阪神1位の下村海翔と、広島1位の常廣羽也斗。楽天6位の中島大輔を含め、3選手が指名を受けた青山学院大学のドラフト会見に密着した
「阪神に行きたいって話を聞いていたんで」
いよいよドラフト中継が始まった。大会議室のスクリーンに各球団の監督たちが映し出され、3人のドラフト候補たちは真剣なまなざしでその様子を見つめている。17時6分、中日を皮切りに1巡目の指名が読み上げられていった。
6球団目の楽天で、「常廣羽也斗」の名前が呼ばれた。そして9球団目、事前公表していた広島も常廣を指名する。感情を押し殺しているのか、常廣は指名が重複しても表情を変えようとしない。背後から「微動だにせず……」という記者の声が聞こえる。
断続的にカメラのフラッシュが焚かれるなか、阪神の1位指名でボルテージが一気に上がった。
「第1巡選択希望選手。阪神、下村海翔」
おおおっ、という歓声が沸き上がる。「どっちみち関西(下村は兵庫県西宮市出身)やから」と絶妙な煙幕を張っていた岡田彰布監督の“一本釣り”が、見事に成功した形になった。指名を受けた直後、なぜか表情を失っているように見えた下村は、その後の会見で「こんなに早く自分の名前が呼ばれると思わなかったので、驚きで頭が真っ白になりました」と打ち明けている。
常廣はまだ自身の抽選が残っているにもかかわらず、このタイミングで下村に声をかけていた。いったい、どんな言葉を贈ったのか。
「事前に阪神に行きたいって話を聞いていたんで。その通りに1位指名が叶って、『よかったね』と声をかけました」
数秒か十数秒か、「その瞬間を覚えていないくらい」の驚きで頭が真っ白になっていたという下村も、常廣に声をかけられると顔をほころばせた。決して大きなアクションを見せたわけではない。リップクリームを塗った唇も、緊張と驚きで乾ききっていたかもしれない。それでも、意中の球団に単独1位指名を受けた喜びが表情から溢れ出ていた。
約1時間半後、青山学院大学にさらなる歓喜の瞬間が訪れることを、まだ誰も知らない。
<後編に続く>