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《広島ドラフト1位》出身は大分“偏差値68”の公立進学校、大学まで全国大会出場なし…ベテラン記者が見た青学大・常廣羽也斗「ホントの素顔」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/26 17:40
ドラフトで競合の末、1位で広島から指名を受けた青学大の常廣。大分の公立進学校出身選手が大学でブレイク
そして、その秋。リーグ戦の開幕週は「福島」で行われて、その2戦目だ。
先発は、このドラフトでも1位候補に挙げられている下村海翔投手(当時3年・174cm75kg・右投右打・九州国際大付)がグラリときた後の4イニングを2安打3奪三振の無失点。この日の最速153キロ。緊迫のタイブレーク延長戦も含めたロングリリーフを、ピシャリと抑えてみせた。
「強いな」と思った。
見るからに……の逞しさじゃない。しなって、しなって、それでも折れない「柳の木」の柔らかさを秘めた強靭さだ。
生来のしなやかさに今季はパワーも加わった
そして、今季。メディアからも「ドラフト1位候補」という報道がボチボチ始まっていた春のリーグ戦。
パッと見てわかるほど、持ち味の快速球がシュート回転している。
ひと冬のトレーニングで、かなり筋肉量も増えたのだろう。新たに身についた「パワー」のほうでボールを投げたがっている。
パワーで投げたがっているのは、常廣羽也斗本人じゃない。彼の体が、勝手にパワーで投げたがっているのだ。
右打者の外を狙った速球がスルスルッと中に入って、そんな失投をパコーンと捉えられたり、逆球に打者の方がビックリして見逃しの三振を奪ったり……本調子ではなかったはずだが、リーグ戦で駒澤大を7イニング無失点に抑えた後には、
「思うようなピッチングじゃなかったんですけど、意地で低めに集めました。勝負球のフォークは、ファールにもされなかったんで……」
「君たちに打たれるようなオレじゃない――」
いつもは隠し持っているそんな勝負根性が見え隠れする囲み取材にも立ち会った。
記者たちの前では、いつも淡々と、粛々と、フラットなもの言いで向き合っていた常廣羽也斗。しかし、話している内容には、よく聞いていると間違いなく鋭い「キバ」をギラッとさせる一瞬があった。
そんなところは、WBCで手の指を骨折しながら試合に出場していた源田壮亮選手(西武)に、雰囲気がよく似ている。