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久保建英22歳“右サイド無双”はソシエダの拠り所「このゴールはタケのだ」指差し感謝のブライス…“動画に映らない”鮮烈MOMとバスクの風景
text by
中島大介Daisuke Nakashima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2023/10/25 17:03
途中出場わずか4分後に決勝アシストをマークした久保建英。“舌出し”にも余裕と風格が漂っている
1つ目は、通常攻撃的な選手の人気が高くなるのが一般的で、このスタジアムではオヤルサバル人気が一際高い。ただGKレミーロの人気も非常に高く、攻撃的な久保に引けを取らないように感じられる。
単純にスーパーな活躍をしているからとも見てとれるが、キーパーの人気が高い土壌だからこそ、レミーロのようなキーパーが育ったとも言える。
レミーロはビルバオユース在籍時、現レアル・マドリーGKケパとポジションを争っている。また現スペイン代表GKウナイ・シモンはビルバオに所属しており、歴史的にもバスク出身名GKが多いと言われる。
途中出場からのセンセーショナルなアシストに、この日のMOMは久保が選出された。ただレミーロがいなければ、久保の投入までソシエダはスコアを保てなかったに違いない。
バスク語で掲げられたパレスチナへのメッセージ
もう1つが、試合中ゴール裏席に掲げられたバスク語で書かれたパレスチナへのメッセージだった。
撮影後、バスク人の友人に誘われ、レ・ミゼラブルの著者ヴィクトル・ユーゴーが、その景色に惹かれ住んでいたことがあるというパサイアという、サンセバスチャンから車で15分ほどの港町へ足を延ばした。
電灯に照らされた石畳と石壁の細い路地を進んでいくと湾に面した小さな広場が姿を現す。そこでは心地よい夜風に吹かれワインを楽しむ地元民の姿があった。
ほど近くのおすすめのレストランへ向かう。
レストランでは、旬が始まったキノコと卵の料理、近海で採れた魚とバスク牛の熟成肉を頬張る。そして試合中に撮影したバスク語について質問をした。
PALESTINA ASKATU(パレスチナに自由を)の〈ASKATU〉は、バスク独立運動に関連して使われる言葉でもあるという。
単純に現在のパレスチナ・イスラエル間の争いを捉えただけではなく、フランコ独裁時代の弾圧、独立運動を経ての、バスク人との共感を含めてのものだと教えてくれた。
ただ、ゴール裏サポーター全てがこれに賛同しているかというと――そうではないようで、ソシエダサポーターながら、これに異を唱えたものたちがゴール裏から追いやられる場面もあった。
“国のチーズ”と“バスク産チーズ”
〆のデザートにはバスチーを頼んだが、メニューからも一風変わった部分があった。
チーズの盛り合わせ欄には、スペイン語表記の〈QUESO DEL PAIS(国のチーズ)〉に対し、英語表記では、バスク産チーズとなっている。尋ねてみると、「ここで〈Pais(国)〉というときは、バスクのことだね。スペインとは思い付かない」との言葉。
バスクは独自の文化が残るなんて言葉はよく耳にする。だけど、生活の中で体験することで、言葉一つの捉え方から違ってくるということを改めて実感する1日となった。
そしてただただ美味しく1日を終わらせることができた。