エジプトに敗れた夜、藤井を取り上げる特集企画がテレビ番組で放映された。

　2戦を難なく勝利した後ならば、また受け止め方も違ったかもしれない。でもなぜよりによってこの日なのか。同じ東レアローズで多くの時間を過ごしてきた高橋健太郎は、それもすべて藤井からのメッセージだと受け取り、関田を誘い、見終えた後に2人で噛みしめるように話した。

「これ、藤井さん来てるよな。見ているよな。頑張るしかねーな」

　緊張感が漂う中で迎えたチュニジア戦。関田のトスには大胆さと繊細さが戻り、高橋健太郎も肩痛の山内に代わってスタメン出場。ストレート勝ちを収め、日本代表はここから勢いに乗った。

勝利したチュニジア戦後、言葉をかわしていた高橋健太郎と関田誠大　©︎Yuki Suenaga

「ネーションズリーグが終わった頃、セキさん（関田）と話していた時に、『こういうコンビもよくね、藤井さん』って普通に間違えてしまったことがあって。セキさんも『藤井さんじゃねーよ』って言っていたんですけど、でもボソっと言ったんです。『俺もっと、藤井さんと話せばよかった』って。藤井さんの特集番組を見終わった時も同じように言っていた。2人は同じポジションのライバルだけど、僕たちにはわからない友情、絆があった。だからセキさんが奮起するために、藤井さんが出てきて『やるべきことをやれ』って、言ってくれたんだと思うんです」（高橋健太郎）

　相手ブロックのシステムを見ながら、試合前半から積極的にミドルを使う。チュニジア戦で関田がセレクトした攻撃はまさに藤井が得意としたもの。長年に渡って「ミドルが弱点」と言われ続けた日本代表が、これでもかとばかりにミドルを使う。その戦い方こそが藤井の象徴であり、今の日本代表につなげた武器だった。

「きっと褒めてくれるんじゃないかな」

　3人のミドルが共通して抱き続けた思いを、小野寺が代弁する。

小野寺にトスをあげるセッター藤井（2019年ワールドカップバレー）©︎Kiyoshi Sakamoto/AFLO

山内晶大、高橋健太郎、小野寺太志、関田誠大　©︎FIVB

「僕ら3人（山内、高橋健太郎、小野寺）は、藤井さんとも一緒にやらせてもらって、藤井さんが求めるクイック、プレーに挑戦してきた。東京五輪が終わってからも『まだまだもっと、コンビを合わせたいね』とか、いろんな話をしていたんです。だからこの五輪予選は何があっても3人で戦う、勝ち抜くんだという気持ちで、切磋琢磨してきた。まだまだできると思っているけれど、でも1つ、結果も出せた。藤井さんに『これだけできるようになったよ』って見せたいです。コンビが合わないと、いつもコミュニケーションを取って、低いとか高いとか、ちょっとのミスもすぐ『ごめん』って言ってくれる優しいセッターだったから、きっと褒めてくれるんじゃないかな」

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