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「生理の知識が少なく、十分な準備もせず」今も悔やむ“五輪直前のピル服用”「アスリートとしてのピーク」だった元スイマー伊藤華英の回想
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2023/10/31 11:01
北京五輪での伊藤華英さん
オリンピックという大事な時に、いわばぶっつけ本番のような状態で、十分な準備もせず、十分な知識もないままピルを服用したことです。中にはあまりピルの副作用の影響を受けない選手もいますし、人それぞれです。
北京オリンピックの時は23歳、すでに10年近く生理とつきあいながら競技生活を続けており、いくらでも生理について知ることや合う対処法を模索することはできたはず。
思えば、生理前はイライラして少し不安な気持ちにもなり、体重が増える。ところが、生理が始まると身体もこころもスッキリしていて調子が良くなる、と感覚的にはわかっていました。ですが、月経周期とコンディションの関係を理解していたわけではありません。
もっと自分の身体、コンディション、生理について…
生理に対する知識自体が少なかったので、生理をずらすにしても、早めるのか遅らせるのか、どちらが良いか判断できませんでした。もちろん、なぜそうしたいのかという理由をコーチやスタッフに伝えることもできません。自分の身体であるのに、自ら責任を持って判断ができる状態ではなかったと思います。
私の場合、生理前は体重が2~3キロ増えるけれど、生理が始まると増えた分はすぐに落ちます。そのサイクルだけでもはっきり把握していたら「オリンピック後ではなくて、オリンピック前に生理が来るようにしたい」と考えることができたかもしれません。
もっと自分の身体やコンディションについて知っていたら、生理について知っていたら。たとえ結果は同じだったとしても、やるべきことをすべてやった、という過程は違っていたはずです。
トップアスリートにとって、競技人生の中で「勝負の時」と言えるのは一度か二度、巡ってくるかこないか。ピークといわれる期間もとても短い。来たる勝負の時に自分が思い描くベストコンディションで臨むために、日々さまざまな練習やトレーニング、食事や休養など、あらゆるすべてをコントロールしながら過ごしています。
女性アスリートにとっては、生理も同じであるはず。泳ぎの感覚と同じように、生理のことをもっと突き詰めて理解していたら、気持ちよく泳ぎ切ることができたかもしれない。ピルに関しても、飲む、飲まない、さらにはいつ飲むのかなどの選択ができたはずです。後ほどお話ししますが、ピルにもさまざまな種類があって、本番前たった3カ月間で自分に合うピルを見つけられるほど、コンディショニングは簡単ではなかったのです。
私にとってのピークは北京、ではロンドンの目標は?
次のロンドンオリンピックを目指そうと決めた時、大事な場面でベストパフォーマンスを発揮できるようにするため、北京の経験をもとにピルによる調整を徹底していく選択肢もありました。ですが、私はピルを使わない準備を選びました。