フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
「自分との戦いですね」大学4年生・本田真凜(22歳)が表現する“スケート人生の光と影”「笑顔で終わること、その目標に向けて…」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2023/10/01 11:04
フィギュア全日本選手権の予選となる東京選手権大会を12位で通過した本田真凜(22歳)
それは、多くのファンが見守ってきた“本田真凜”の像とも、重なるものがあった。16年世界ジュニアでは女王に駆け上がり、トップ選手に。シニアに上がってからは期待される順位を残せない試合が増えても、一方で、見るものを捉えて離さない存在感は色褪せない。その相反する魅力もまた、彼女の個性として浄化され、より注目が高まってきた。
そして迎えた大学4年生の今季。初戦となった東京選手権のダイドードリンコアイスアリーナには、多くのファンが訪れていた。ショートの本番前、いくつもの「まりん、がんば~」のエールが響く。曲は初披露となるアラン・ウォーカーの『Faded』。YouTubeでの再生回数が35億回を超えるエレクトロニック・ミュージックの女性ボーカル版だ。会場に、物悲しげで、透明感あふれる歌声が響く。
「このショートプログラムは、自分のスケートと自分自身をあらわして作っていただいた曲です。ハッピーな気持ちというよりは、少し悲しい気持ちとか、色んな複雑な気持ちを表現したくて、自分で選んだ曲です」
選んだ振付師は、シェイリーン・ボーン。これまで本田には、殻を打ち破るようなナンバーを振り付けてきた。
「シェイリーンは、振り付けのセンスも彼女の人柄も、すべてを尊敬している、大好きな振り付けの先生です。今回は『自分のスケート人生の光と影』というテーマを表現したいということを、自分から伝えて作っていただきました」
その歌詞を、本田が意図する「私のスケート人生の光と影」のテーマに沿って聞いていく。すると、ひとつひとつの言葉が、胸に刺さってくる。
「You were the shadow of my light. Did you feel us? Another start, you fade away. Afraid our aim is out of sight.」[『Faded』作詞・作曲:BORGEN JESPER]
(私とあなたは、光と影でいつも一緒の存在、そう感じていたでしょう? 新たなスタート、あなたは消えていく。私達の向かう場所が分からなくて、怖いの)
そして「Wanna see us, alive」(輝いていたころの私達が見たい)で1つめのジャンプ。幾度となく繰り返される「Where are you now?」(あなたはどこにいるの?)のフレーズ。そして最後は「So lost, I’m faded」(迷子になって、私は消えていくの)で終わる。[『Faded』作詞・作曲:BORGEN JESPER]
歌詞自体は、悲しみの面が強いけれど、美しい歌声がその苦しみを和らげてくれる。そんな曲だ。
「自分との戦いですね」
本番では、ジャンプのミスはあったものの、ていねいに心をこめて演じているのが伝わってきた。