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「秀太さん、苦しいです」横田慎太郎24歳は涙を流して引退を決めた…「ボールが二重に見える」窮地の横田を救った、田中秀太からの一言
text by
横田慎太郎Shintaro Yokota
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/09/16 11:02
2016年、一軍でプレーした横田慎太郎。翌年、脳腫瘍の診断を受けた横田は闘病を続け復帰を目指し、2019年のシーズンを迎える
もう2年が過ぎているのに、復帰への道のりは遅々として進まない。「復帰なんて本当にできるのだろうか」と心が折れそうになっているのだけれど、これまでお世話になった人々や応援してくれる人々のことが頭に浮かぶと、恩返しのためにもがんばらなければいけないと自分を追い込んでいく……知らないうちにストレスと不安、プレッシャーを感じていたのだと思います。
こんなことをしていても無駄なのではないか
目が見えて、身体も普通に動いていて打てないのなら、もっと練習すればいい。でも僕の場合、やる気はあっても身体が許してくれない。練習をしたくても、できないのです。しかも、目の状態がこれ以上改善される兆しは見えてこない……。
「これでは――」
僕は思うようになりました。
「やっている意味がないじゃないか……」
「がんばろう」という前向きな気持ちより、「こんなことをしていても無駄なのではないか」という後ろ向きの気持ちのほうが次第に強くなっていったのです。自分が何のために練習をしているのかわからない。目標を見失ってしまったのです。
「このまま来年も続けても、おそらくこの繰り返しだろう。そろそろかな……」
球団は「来シーズンも」と言ってる。でも…
担当スカウトの田中秀太さんから「ちょっと来てくれるか」と言われたのは、そんな気持ちが募っていたころ。9月中旬のことでした。
この1、2か月、秀太さんがたまに練習を見に来ていることには気づいていました。
球団としても、そろそろ来年のことを考えなければいけない時期だったのでしょう。
秀太さんが切り出しました。
「球団は、来シーズンも続けてかまわないと言ってる。でも、苦しかったら――」
秀太さんは言いました。