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「秀太さん、苦しいです」横田慎太郎24歳は涙を流して引退を決めた…「ボールが二重に見える」窮地の横田を救った、田中秀太からの一言
text by
横田慎太郎Shintaro Yokota
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/09/16 11:02
2016年、一軍でプレーした横田慎太郎。翌年、脳腫瘍の診断を受けた横田は闘病を続け復帰を目指し、2019年のシーズンを迎える
「今年でやめてもいいぞ」
そして続けました。
「率直に言ってくれ。正直、来シーズンは厳しいだろう?」
重荷が取り除かれた瞬間
その瞬間、堰を切ったように僕の目から涙があふれてきました。
「はい。苦しいです」
それまで誰にも「苦しい」という言葉を口にしたことはありませんでした。自分で決めたことだから、弱音は吐きたくなかった。ネガティブなことを言葉にしたとたん、心が折れそうな気がしていました。だから懸命にこらえていた。周囲の人も、何も言わず見守ってくれていました。
でも、秀太さんの「苦しかったら、もうやめてもいいんだぞ」という言葉で、それまで自分ではおろせなかった、あえておろそうとしなかった重荷が取り除かれたのかもしれません。素直に「苦しい」と口にしていました。
秀太はわかっていた
「うん。おれもわかってたよ」
最近の僕の練習ぶりを見ていた秀太さんは「様子がおかしいな」と見抜いていたようです。僕は迷うことなく言いました。
「今年でやめます」
両親にはその日に伝えました。母ではなく、父に電話しました。やはり、プロ野球選手の先輩としての父にまずは報告したかったのです。
元プロ選手の父が「最高の、自慢していい息子」
父も母も「おまえが決めたことだから」と、それ以上何も言わずに全面的に受け入れてくれました。
電話を切ってから、父は母に言ったそうです。
「慎太郎がここまで強い男だとは思わなかった。おれだったらとてもできなかった。最高の、自慢していい息子だと思う」
実はこの話は、つい最近母から聞きました。「もっと早く言ってよ!」と思うと同時に、とてもうれしかった。そんな言葉を言われたのははじめてだったからです。
<続く>