マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「史上最高のドラフト予想」もある中で…取材記者が明かす大学&社会人野球“誰も書かなかった”隠れた逸材サウスポー3人
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/09/11 17:02
大学野球の隠れた逸材【3】明治大・石原勇輝投手(180cm85kg・左投左打・広陵高)
「阿部雄大キラリ」の正体は、左打者の内角を突けること。スライダーで左打者の上体を起こし、落下速度を感じる大きなカーブで、スイングを崩す。サウスポーがプロで仕事ができるかどうかの大きな分岐点の一つ。それが、左打者の内角を突ける技術。阪神・伊藤将司投手の活躍が、それだ。
軸足でしっかり立てて、踏み込んでから体の左右を一気に切り返せるメカニズムにも、さすが「名門」の基本教育を感じる。
スピードガンの数字より打者が嫌がる体感スピードがあって、いつでもストライクがとれる変化球が2つも3つも。「プロで働けるサウスポー」の条件は持ち合わせているようだ。
ENEOS・嘉門裕介コーチは、横浜商大当時から、毎日、毎日、根気よく、根気よくブルペンでミットを構え、レギュラーマスクとしても奮戦してきた。
「またブルペンに戻ってきました! いまはブルペンコーチです!」
いい顔になった。要職、大役である。
「(阿部は)カットボールと、チェンジアップも使えますよ。ウチはいいピッチャーばかりなんですが、その中でも、たぶん2番目か、3番目じゃないですか」
投手のほんとのところは、受けてるヤツのミットがいちばん間違いない。試合を作れるサウスポーは、どこだって欲しい。
【2】桐蔭横浜大・生長蓮投手「一線級の変化球が複数」
ドラフト史上最高の豊作かもしれない今年の「大学生投手」だが、サウスポーに関しては、決して十分じゃない。
新聞紙上では、球速などの数字が映える東洋大・細野晴希投手(180cm85kg・左投左打・東亜学園高)一択の様相だが、スカウトたちの間では意外と桐蔭横浜大・古謝樹(181cm76kg・左投左打・湘南学院高)の評価も高い。
さて、その桐蔭横浜大の試合だ。相手が慶応義塾大なら古謝投手が投げるだろうと思ったら、メンバーにも入っておらずにガッカリ。齊藤博久監督によると、相手うんぬんではなく、ローテーションで投げる日を決めるという。昨日登板してしまったそうだ。
ガッカリした顔をしたら、
「今日の先発もいいですよ! こっちのほうが、安倍さん好みかもしれない」
と教えてもらった生長蓮投手(181cm71kg・左投左打・小松大谷高)が、慶応義塾強打線になかなかジャストミートを許さない。
スリムな長身左腕なら、たいていは投げるフォームにアンバランスやぎこちなさがあるものだが、まずそれが見えない。
スラリと長い手足が、過不足なくしなる。力の入れ具合の程がよいから、まっすぐがベースの上で来ている。ガンで測れば135キロ程度だろうが、特に、左打者が捉えにきている速球がファールになるのがアドバンテージ。カウントが作れる。