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微笑む廣瀬俊朗に「笑いごとじゃないぞ」とマジギレ…エディー・ジョーンズが明かす、日本代表を団結させた“ある引き金”
text by
エディー・ジョーンズEddie Jones
photograph byAFLO
posted2023/09/18 17:03
エディー・ジョーンズが率いるチームの初代キャプテンとなった廣瀬俊朗。真剣に彼の態度に怒ったエディーにはある計算があった
「笑いごとじゃないぞ。これが日本ラグビーの問題だ。真剣に勝とうとしない。勝利を求めるなら、もっと前に出て相手を圧倒しようとしなければならない。何人かの選手は、変わらないかぎり、成長しないかぎり、二度と日本代表としてプレーすることはないだろう。私は日本のラグビーのために何をすればよいのか? 日本人選手だけで続けてほしいのか? それとも半数をニュージーランド人にする道を選んでほしいのか?」
“劇薬”によりチームは情熱を燃やし始めた
私は真剣に怒っていたが、その一方で、選手たちの心の奥深くに通じるアクセス・ポイントを見つけようと冷静に考えていた。私は廣瀬や五郎丸歩のような聡明な若者と打ち解け、選手として変容する引き金になるポイントに触れたかった。このときの試みは功を奏した。日本チームはより団結し、決意を強め、情熱を燃やし始めた。
廣瀬はチームをまとめつつあり、私は常にその知性を最大限に発揮してもらうよう促した。チームは改善されたが、廣瀬はウィンガーのレギュラーポジションを確保できなかった。そこで、私はマイケル・リーチをキャプテンにした。彼はニュージーランド出身だが、長年日本で暮らしていた。完璧な日本語を話し、私よりもはるかに日本文化に通じている。だが、廣瀬もチームに置くと決めた。試合には出ないキャプテンとして。
人の心を動かすキャプテン
廣瀬は日本代表として28試合の出場歴があるが、2015年ワールドカップで選出された31人の選手の中で出場機会がなかった。けれどフィールド外では才気にあふれ、リーチと全責任をわかち合っていた。廣瀬はマイク・ブレアリーと同じような存在だった。ブレアリーはイングランドのクリケットチームで、打者としてはレギュラーに選ばれなかったが、人の心を動かすキャプテンだった。
エリートスポーツ界では、人間関係がこれほど重要なのだ。スポーツでもビジネスの世界でも、ついカッとなってしまうとき、フィールドの外で感情的なつながりを感じている信頼できる人の存在は、気持ちを楽にしてくれるものだ。
若い選手を見ていて感じる変化
あれから数年が経つが、私は今でもスポーツ心理学者とよく話をする。彼は水泳選手を担当している、私の古い友人だ。選手たちを励まし心の平静を見出す方法を話し合うとき、貴重な相談役になってくれる。大切なのは、常に選手たちとのアクセス・ポイントを持つことだと教えてくれた。選手とコーチの関係の中で、選手に精神的なつながりを感じさせる方法を見つけなければならない。その選手にとって人生で何が一番大切かを理解し、ラグビーに対する意欲を起こす原動力を特定できれば、つながりを強めるための言葉を見つけられるだろう。