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「私は五郎丸歩を寿司屋に呼び出した」エディー・ジョーンズが振り返る、若き五郎丸とサシで話し合った夜「さて、話を聞かせてくれないか」 

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エディー・ジョーンズ

エディー・ジョーンズEddie Jones

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/09/18 17:02

「私は五郎丸歩を寿司屋に呼び出した」エディー・ジョーンズが振り返る、若き五郎丸とサシで話し合った夜「さて、話を聞かせてくれないか」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2015年ラグビーW杯での躍進に大きく貢献した五郎丸歩。エディー・ジョーンズは彼との関係構築に腐心したという

 日曜日、五郎丸は通訳に電話をかけ「いつエディーさんとミーティングをするのか?」と尋ねた。通訳は、わからないと答えた。私は通訳と連絡を取っていなかった。数時間後、五郎丸は再び通訳に電話して、ミーティングはいつか尋ねた、通訳の答えは同じだった。五郎丸は、私の思うつぼの状態になっていた。私は、もう少し彼をじらすべきだと考えた。月曜日、通訳の携帯電話は「ミーティングはいつだ?」という五郎丸からのメッセージでいっぱいになっていた。

エディーが指定したのは寿司屋だった

 ついに、私は返答した。

「今夜6時、レストランで」

 私が選んだのは、ホテル内の寿司屋だった。小さいが洒落た高級な店で、普段は使うことはない。五郎丸はその店を指定されたことに驚いていた。誰もいないチームルームで叱られると覚悟していたからだ。だが、私は五郎丸の複雑な人間性に入り込むには、別のアクセス・ポイントを見つけるべきだと思った。私が日本チームを率いることになったとき、一番おおっぴらに反抗した選手が五郎丸だった。

 五郎丸は、私の前任であるジョン・カーワン時代、2011年のワールドカップでメンバーから外され激怒した。カーワンはニュージーランドで開催されるこの大会に、五郎丸を選ばなかった。偉大なオールブラックスの選手だったカーワンは、外国人選手によるチームの補強が必要だと考え、日本でプレーするニュージーランドや太平洋諸島の選手たちの多くを代表メンバーに選んだ。愛国心の強い五郎丸は、カーワンの選出基準に腹を立てた。自分がポジションを奪われただけでなく、日本人選手に対する侮辱であると。

よそよそしい五郎丸にエディーが考えていたこと

 2012年4月、カーワンからチームを引き継いだとき、私は違う方法を採用した。外国人を多用せず、日本人中心のチームに戻したのだ。迷わず選んだのが五郎丸だった。日本のクラブチームのコーチを何年か経験した私には、彼が優れたフルバックでゴールキックの名手であるのを知っていた。実力だけを基準にしても彼を選んだだろうが、愛国心の強い日本人選手をチームに入れるという私のプランにも合致した人材だった。

【次ページ】 寿司屋の客は我々ふたりだけだった

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