1年目は大東大の語学クラスで日本語を学んだあと、ラグビーに取り組み、夜はソロバンの練習。塾では、机を並べる隣の子どもたちが、小さな手で目にも止まらぬスピードでソロバンの珠を弾いている。

「あれにもびっくりした。ノンビリしたトンガに比べて、日本の生活はホントに忙しい。もう本当に泣きそうだったよ……毎日毎日、帰りたいと思っていた」

　来日前は「日本には英語もある」と聞いていたが、英語はほとんど通じない。

　夜中、ラグビー部員が寮で酒盛りをしていても、日本語が分からないから仲間に入れない。部員たちが自分たちを襲う計画を立てているのではないかと妄想して、不安にさいなまれた。

現在はオーストラリア在住のホポイ氏。日本に来るまでラグビー経験はほとんどなかったという　©JIJI PRESS

ホームシックで旅館の2階から飛び降りようと…

　1981年、1年間の語学クラスを修了したノフォムリとホポイは、正式に大東大に入学する。だが、完全なホームシックだった。

　来日間もないころ、ソロバン塾の温泉旅行に参加した。酒を飲んだノフォムリは寂しさのあまり旅館の2階から飛び降りようとして止められる。冗談半分だった、と決まりが悪そうに苦笑いするが、死んだ方が楽になると考えるほど思いつめていたのだ。

　トンガには絶対に帰らない。ノフォムリはそう心に決めて来日した。それでも、ふとした瞬間に孤独感や寂しさが頭をもたげる。中野に帰りたいと打ち明けようとも考えるが、そのたびに家族の顔が浮かんだ。

　ヤクザ映画や戦争映画で知る危険な日本に旅立つ息子を最後まで止めようとした母。トンガに残るより日本で勉強した方が未来が広がるはずだと、背中を押してくれた父。そして兄の成功を待つ6人の弟妹たち……。

　そのころ、トンガではニュージーランドやオーストラリアなど英語圏への渡航が一般的だった。もちろんトンガから日本への留学は前例がない。そもそも日本とはどんな国なのか。留学する当事者も知らなかったのだ。家族も大きな不安を抱え、息子を未知の国に送り出したはずだ。それは文化や言語をこえた万国共通の親心だろう。

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