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オリンピックPRESSBACK NUMBER
2019年世界陸上を優勝後、代表を連続辞退…競歩・鈴木雄介35歳が語る“空白の3年間”「オーバートレーニング症候群の診断」「…引きこもり状態でした」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYuki Suenaga
posted2023/08/25 11:07
2019年の世界陸上での金メダル獲得後、3年ほど大会に出場してこなかったが、何が起きていたのか。本人に話を聞いた
「オーバートレーニング症候群になると体を休ませなければならないんです。いま練習を完全に休んだらどうなるのか、それを想像したら怖くて……。しかも病名が良くないですよね。オーバートレーニング症候群って聞くと、みんなトレーニングのしすぎを想像するじゃないですか。自分の場合は一つの過酷な試合がきっかけなのに、世間的にそう見られてしまうのも嫌でした。ネットの記事を読むと、1、2カ月休んで良くなるケースもあれば、まったく回復せずに長引くケースもあるという。もし長引いたらどうしようという不安がこの時は大きかったです」
何をしていても疲れが先に来てしまう
治療の過程では抗うつ剤を用いたが、鈴木はそれも「精神的に弱い部分があると認めるようで辛かった」という。外傷や高熱などの目に見える症状がないため、周囲の理解を得ることが難しいのもこたえた。医師からは「好きなことをやって気晴らしをして下さい」とアドバイスを受けたが、それすらできなかったと鈴木は話す。
「診断を受けて、そこでようやく完全な休みを取ったんです。ジョギングすらも止めて、ただひたすら自宅にこもるという。大げさでなく、引きこもりですよね。昼間は眠いのに、夜になると眠れない。精神的に落ち込んだり、ベッドから起き上がれないくらいキツい日もありました。けっこうマンガとか読むのが好きなんですけど、それすら億劫で読めなかったですね。とにかく何をしていても疲れが先に来てしまうんです。今はこうやって元気に話せますけど、人と話をするだけでもしんどかった。妻にはほんと可哀想なことをしたと思ってます」
妻は泣いていた
鈴木が結婚したのは2020年の8月である。本来ならオリンピックで金メダルを取った後に入籍をするはずだったが、1年延期になったことで結婚式を前倒しした。日取りを決めたときはまだ体調もそこまで悪くなかったが、新婚生活を始めた頃は体調も悪化の一途をたどっていた。
少しジョギングができる日もあれば、ベッドから起き上がれない日もあった。およそバラ色とは言いがたい日々を過ごす中で、鈴木には五輪出場の可否を判断するタイムリミットが迫ってきていた。