ここまで2戦連続完投勝利していた吉田輝星が立ちはだかる。戦前にはノーマークの存在だったが、聖地で躍進を続ける新星。平田監督が「吉田対策」として選手たちに伝えたのは「ヘルメットのツバを下げろ」という指示だった。つまり、打席で高めの球に手を出さず「目線を下げろ」という意味だ。万波は2安打を放つなど横浜打線は計12安打4得点と吉田攻略に成功。それでも勢いは止められず、犠打を駆使して「守り勝つ」野球を貫く金足農業にまさかの2発を浴びた。

3回に吉田が放った打球は…　©JIJI PRESS

「3回に吉田くんに2ランを打たれているんですが、あの時は中正がまさにセンターを守っていて、打球が上がった瞬間、あの子独特の高い声で『オーライ』ってベンチまで聞こえたほどでした。センターフライ、そう思った瞬間、ボールが浜風に流されてスタンド最前列に入った。中正もベンチも呆然としていました」

ヒーローを産むことは時代の要請だったんだな

　回を追うごとに観客たちも、優勝候補を追い詰める農業高校の素朴な選手たちに熱狂していった。目に見えない何かに飲み込まれるように、横浜ナインの足がすくむ。8回に逆転の3ランを浴びて迎えた最終回は、4番・万波から始まる中軸を吉田が三者連続空振り三振。唇を噛んだ万波の頬には涙が伝っていた。

　平田監督は振り返る。

「あの後の吉田くんの活躍を見たら、ヒーローを産むことは時代の要請だったんだな、とも思いましたけどね。でも……僕はショックでした。あれが甲子園の怖さですかね。あの年は、大阪桐蔭と互角に勝負できるのはうちだけだと思っていたし、それくらいいいチームが作れたという手応えがありました。彼らともっと一緒に試合がしたかった。あの悔しさは今でも残っています」

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