甲子園の風BACK NUMBER
「自由に選んだ」坊主頭…“サラサラヘアー”慶応に立ちはだかる名門・広陵“丸刈り軍団”の理由は? 中井哲之監督が明かす「髪を伸ばすのは嫌です!って」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/16 10:00
昔ながらのヘアスタイルを自ら選択している広陵高校の球児たち
「僕は干渉しません」
高校野球は変わってきている。勝利至上主義への風当たりが強くなり、丸刈りも、昭和の名残である根性野球の象徴とみられるフシがある。だが、広陵のように生徒が自主的に決めた髪型もある。
大会前、選手たちは身だしなみを整えた。中井は「すごく短くなってね。(髪を刈る長さを調節できるバリカンの)『アタッチメントを取りました』とか言っていました。とにかく、僕は干渉しません」と笑っていた。
試合後のインタビュー。中井の隣では、報道陣の囲みから頭2つ分ほど抜け出た丸刈りの球児が顔をのぞかせていた。主砲の3番打者、真鍋慧内野手である。6回、逆転直後の2死満塁で左中間に3点適時二塁打を放った。高々と舞った大飛球は風にもあおられ、外野手の目測を誤らせた。中井も言う。
「練習ではあのへんによく飛ばしますから。スイングスピードの速さが特長ですが、まだ伸びしろがある。体が細いです。夢がプロ野球選手ならね」
注目の真鍋の愛称は「ボンズ」
189cm、92kgの体躯は魅力たっぷり。中井は1年生の頃から真鍋を4番で起用し、スケールの大きさから元メジャーリーガーにあやかって「ボンズ」と名づけた。
真鍋は器用ではない努力型の選手である。1日500スイング以上の素振りを自らに課し、時には暗闇のなか、ひとりで振り込んできた。右足の使い方が成長ぶりを示している。もともと足を上げて打っていたが、1年春、投手に間合いを計れず、6月からすり足打法に変えた。打球の飛距離を出すために「足を上げて打っていいんじゃないか」と監督に勧められてきたが、2年になっても「自分は足を上げてタイミングを取るのがあまり得意じゃないんです」と言い、打ち方を変えなかった。
この夏は違う。再び右足を上げて打てるようになった。泥臭く野球と向き合い、高校通算62本塁打を重ね、今秋のドラフト候補に挙がるまでに成長。この日の一打も右足を踏み込んで打ったものだった。
「センター中心に打つと決めていました。調子がいい時は逆方向に打てる。状態はいいと思います」