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“久保建英の師匠”シルバ37歳引退「カメラマンの自分は持っていた」スペイン黄金期の魔法から“失意のクボに声掛け”…決定的瞬間の数々
text by
中島大介Daisuke Nakashima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2023/08/12 17:01
レアル・ソシエダ、スペイン代表時代のダビド・シルバ。稀代の名手を撮り続けて気づいたこととは
まだ規制も緩く、選手とカメラマンの距離も近い時代だった。
試合前にベンチでリラックスして過ごすシルバにレンズを向けると、笑顔でポーズを取ってくれた。ただひとたびピッチに出ると、力づくで迫り来る相手をひらりとかわし、そして針の穴を通す鋭いパスを繰り出す強い眼差しが写真に残る。
一番印象に残る撮影は、ユーロ2012決勝
一番印象に残る撮影は、ユーロ2012決勝での1枚だ。
舞台は7月1日、ウクライナの首都キーウ。
当時は、日本語表記ではキエフが一般的だった。美しい女性が綺麗な街並みを楽しげに歩いていた。快晴の暑い夏の日だったが、現地21時45分のキックオフ時間までには陽が落ち、ピッチは照明によって輝いていた。
主要国際大会の決勝ともなると、カメラマンの1日は長い。
キックオフの何時間も前から控え室に集められブリーフィングを受け、また撮影ポジションの抽選が行われる。
「自分は持っていた」と思う3つの幸運
自分で言うのもなんだが、「この日、自分は持っていた」のだと思う。
《幸運1》
この日のカードは、スペイン対イタリア。スペイン在住ということが考慮され、この舞台で優先的に好きなポジションを選ぶことができた。
どんな競技でもそうだが、ピッチの広いサッカーの撮影では、より撮影ポジションによって出来が変わる。おかげで座席数が少なく、大手通信社のカメラマンだらけで埋まってしまう、メインスタンドよりの席を確保できた。
《幸運2》
大会を通じ、キヤノンが発売されたばかりの当時最新機となるカメラボディーEOS-1D Xの貸し出しをしていたのだが、台数に限りがあり、一度も試すことが出来ていなかったのにも関わらず、決勝の舞台に最新機材で臨むことができた。
そして最後の《幸運3》。
キックオフから14分後、セスクのクロスに反応したシルバにしては珍しいヘディングのシュートがイタリアのゴールを破ると、シルバはセスクと抱擁し、こちらに向かって喜びの表情と共に走り出していたこと。
さらにスペインの2点目となったアルバのゴールセレブレーションに対しても最適なポジションから最新機材での撮影が行えたことだ。