Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER

傷心の永里優季に「てか、なんでいないんだよー」宮間あやが気遣い、安藤梢が「トロフィーを長く持ちすぎで」笑いあった日〈なでしこW杯優勝の舞台ウラ〉

posted2023/08/09 17:35

 
傷心の永里優季に「てか、なんでいないんだよー」宮間あやが気遣い、安藤梢が「トロフィーを長く持ちすぎで」笑いあった日〈なでしこW杯優勝の舞台ウラ〉<Number Web> photograph by AFP/JIJI PRESS

女子W杯を手に、笑顔の永里優季と安藤梢

text by

ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

PROFILE

photograph by

AFP/JIJI PRESS

2011年、なでしこジャパンがW杯優勝を成し遂げた際、FWとして数字以上に大きな貢献を見せた永里優季と安藤梢。その葛藤と栄光までを描いた記事「<なでしこインサイドレポート> 苦悩する2人のFW。 ~永里優季と安藤梢~」を特別に全文公開します。【初出:Sports Graphic Number784号(2011年8月3日発売)】※肩書きや時系列などは掲載時のまま(全2回の2回目/#1も)

前編(#1)のあらすじ>
 グループステージを連勝して決勝トーナメント進出を決めていた日本だったが、第3戦イングランド戦で前線の守備が機能せず0-2の完敗を喫した。守備と攻撃のバランスをどう取るのか――。2トップである永里と安藤はそれぞれの中での改善策を考えながら、準々決勝ドイツ戦に臨んだ。

 そのドイツ戦、安藤は体を張ってボールを収めつつ、周囲に展開するなどの貢献で佐々木則夫監督から「MVP級」との賛辞を得た。その一方で永里はハーフタイムでの交代を命じられていた……。

◇ ◇ ◇

 問題の本質については、佐々木監督が明言している。

「永里は攻撃に対する思いが強く、守備への切り替えが少し遅い」

 結局、何もできないまま、永里の45分はあっという間に過ぎていった。永里のいない後半もドイツの猛攻を受けた日本は、一度もゴールを割らせることなく90分を終えた。

宮間は傷心のエースを気遣い、永里は助言をしていた

 延長戦直前、ピッチ上でストレッチをしていた宮間のもとに、永里が近づく。宮間は、永里の頭を小突く仕草をして、声をかけた。

「ああいうプレーしてたら、そりゃ交代させられるよ」

 でも、宮間は怒ってはいなかった。

「てか、なんで、この時間にピッチにいないんだよー」

 傷心のエースを気遣っていたのだ。

 延長後半に入り、途中出場のFW丸山桂里奈が速攻から決勝点を奪った。ラストパスを出したのはMF澤穂希だったが、丸山は試合後に宮間からのアドバイスについて言及していた。

「(宮間からは)速攻からサイドのスペースに走るように言われていたんです。だから前にいったとき、うまくスペースにもらえるようにというのは意識してやってました」

 そのアドバイスは、元は永里が宮間に送ったものだった。ハーフタイムの出来事を永里が振り返る。

「『どこかで速攻をしかけたほうがいいよ』って伝えました。相手DFとマッチアップしている中で感じたんです。結局、速攻から決まりましたよね」

 この日は安藤の29回目の誕生日だった。試合終了の笛がなると、チームメイトが安藤に水をかけていく。時刻は日付が変わる少し前。ずいぶん遅い誕生祝いだった。

 永里は試合終了の笛をベンチで聞いた。そして、頭を抱え、涙を流していた。

川澄との2トップになった安藤が感じていたこと

 続く準決勝スウェーデン戦で、これまで不動だったスターティングメンバーに初めて手が加えられた。永里に代わり川澄奈穂美が2トップの一角に入り、安藤と川澄のコンビが誕生。「ぶっつけ本番」に近い。2トップの役割も変わった。それまで永里が務めていた役割を安藤が、安藤が務めていた役割を川澄が担うことになった。

 安藤には以前から感じていたことがあった。

【次ページ】 ナホには攻撃だけじゃなくて、守備についても

1 2 3 NEXT
永里優季
安藤梢
宮間あや
佐々木則夫
川澄奈穂美
丸山桂里奈

サッカー日本代表の前後の記事

ページトップ