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藤井聡太七冠とWタイトル戦1勝6敗に「2人は際どい勝負。ただ…」佐々木大地28歳は“気遣いの天才” 10年来の盟友・高見泰地30歳が知る素顔
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by日本将棋連盟
posted2023/08/15 11:02
王位戦第4局前日の藤井聡太七冠と佐々木大地七段。高見泰地七段が知る盟友の素顔とは
トップランナーである羽生善治九段と数々の名局を繰り広げた森内。2000年代から10年代にかけて、将棋界のゴールデンカードとして「羽生-森内」を楽しんだ将棋ファンは数多い。
子供の頃に羽生との指導対局をきっかけに棋士を目指すことになった高見が、棋士となって森内とともに研究する――そのエピソードが小説やマンガのようだが、そこでの佐々木との出会いが、今も続く高見と佐々木の関係性のスタート地点となった。
当時、佐々木は奨励会で三段リーグに所属していた。高見が持った第一印象は「とても周囲の人に気を遣う人柄で、周りの出来事にすぐ気が付くタイプ」だったという。
「毎回、自分たちが森内先生の研究室にお邪魔する形でした。なので〈飲み物を買っていかないとな〉と思って自分が4人分の飲み物を用意していったんですが、大地くんもしっかりと買ってきて、8人分どころか飲み物が十数本あって余らせてしまうことが多かったんです(笑)。でも当時から、それだけ気を遣えるセンスが磨かれていたということなんでしょうね。
それとともに、電車を乗り継いで来ていただく阿久津八段にも感謝しているんです。阿久津八段の好物である蕎麦茶を冷やして持参するようにしていたのですが〈この研究会は毎回飲み物が充実していていいねえ〉と笑われたこともありました」
テーマパークで、先輩のスマホの充電がなくなったら
盤上を離れても、佐々木の気遣いの人ぶりに高見は感心することが多い。他にエピソードを聞いてみると「本当にいろいろあって、これ! って1つを挙げるのが難しいほどなんですけど」と、仲間内で伝え聞いた話を口にした。
「面白いなあと思ったのは、自分は行かなかったんですが、他の棋士とテーマパークに遊びに行ったときに、先輩の棋士のスマホの充電が、なくなってしまったそうです。すると大地くんはそのテーマパークで充電器を探し回ってあげたそうなんです。
ちなみに私も数年前の夏頃、大地くんや八代弥七段たちに――そのテーマパークに三枚堂達也七段・高見への誕生日祝いで連れて行ってもらったことがあるんです。すると八代七段と高見に対して〈先生方は暑いので日陰で待っていてくださいね〉と言ってくれて、ファストパスなどを取りに奔走してくれました。とにかく自分ではなく、周囲のために使う時間が多くて、ちょっと心配になることはあるのですが、それがまた彼の良さなんだろうなと思っています」
今回の藤井とのダブルタイトル戦、佐々木が着用していた和服は、高見と三枚堂がプレゼントしたものだというエピソードが話題になった。「それは思いつきではなく、彼がタイトル戦の挑戦者になったら絶対にお贈りしようと5年くらい前からも思っていたんです。それだけ一番お世話になった後輩ですからね」とも高見は語っている。
先手相掛かりの強さがWタイトル戦に繋がっている
もちろん“天才的な気遣い”ができる人となりだけでなく、高見は佐々木の指す将棋にも注目していた。