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藤井聡太七冠とWタイトル戦1勝6敗に「2人は際どい勝負。ただ…」佐々木大地28歳は“気遣いの天才” 10年来の盟友・高見泰地30歳が知る素顔
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by日本将棋連盟
posted2023/08/15 11:02
王位戦第4局前日の藤井聡太七冠と佐々木大地七段。高見泰地七段が知る盟友の素顔とは
「森内先生との研究会でも、大地くんはかなりの勝率だったんですよ。私はともかく(苦笑)、森内先生と阿久津先生がいる中でもそれだけの将棋を指せる。すでに当時から実力があったんだろうな、と。当時は奨励会三段ということで、棋士になれなければどうしようもない側面がある。それを乗り越えて四段昇段できたことはよかったなと思いますし、棋士になって以降も本当に頑張っていますよね」
佐々木は2023年に初めての八大タイトル挑戦のチャンスを得た。「彼の将棋は序盤から研究が深くて、先手だと相掛かりを非常に得意とされています。その先手相掛かりの強さが今回の棋聖戦、王位戦への挑戦に繋がっています」と高見が語る通り、挑戦者決定戦でそれぞれ永瀬拓矢王座、羽生を破っている。
そんな佐々木を迎え撃つのは、七冠王者・藤井である。「大地くんから見て棋聖戦は1勝3敗、王位戦は3敗ではあるのですが、将棋の内容を深く見ていくと……終盤で入るところでチャンスを迎えた対局があったんです」と高見は話す。
2人は際どい勝負をしている。それを上回る藤井さんの…
棋聖戦第2局では得意の相掛かりから1勝を挙げたが、棋聖奪取はならず。王位戦も藤井の防衛まであと1勝と、追い込まれた状況だ。それでも高見は、佐々木の棋力を感じ取る場面があったと力説する。
「たとえば決着局となった棋聖戦の第4局、終盤の75手目に〈7三香〉と叩き込む手があったんです。香車をそこに指すというのはあまり見ないものですし、非常に難易度の高い手で、実際の盤面には現れませんでした。ただここでその手を指せていれば、確かに勝ちへと近づけていた。その状況にまで大地くんが持って行ったとも表現できます。もしここで『2勝2敗の最終局』となっていたらシリーズがもつれたわけですし、最終局まで行くと、将棋の世界では何が起こるかは分からない。
このダブルタイトル戦、ここまでの成績だけで見ると『1勝6敗』なのですが……2人は際どい勝負をしているのだなと実感します。それと同時に、最後の際どいところを上回っていく藤井さんの力を改めて目の当たりにするというか。タイトル戦の経験値なども含めて、そこが現状の勝敗になっているのかな、とも感じています」
藤井さんは何百年レベルで歴史に残るだろう棋士
今回のダブルタイトル戦においては“土俵際”の状態に見えるかもしれない。ただ高見の口調は、28歳の盟友への敬意があふれていた。それとともに、稀代の天才棋士と戦いを積み重ねていくことの意味合いをこう話した。