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「履正社行くなら本気で甲子園目指そうと」史上初のセンバツ開催中止…連覇への挑戦権を奪われた履正社ナインはコロナ禍をどう乗り越えたか
text by
釜谷一平Ippei Kamaya
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/07 17:08
2019年夏の甲子園で初優勝した履正社。史上5校目の夏春連覇に向けて挑戦するはずだったが…
2020年4月7日。日本政府は緊急事態宣言を発出する。
新型コロナウイルス感染症の拡大を可能な限り抑制するため、「三密」回避が徹底され、飲食店が営業停止を強いられるなど国民の生活、経済活動への影響は甚大だった。当然、その波は学校現場にも及び、「一斉休校」の原則が適用された。
野球部の練習も中止となり、生徒たちは登校すらかなわない中、各自で「夏」に向けての鍛錬を強いられたのである。
当時の日々を、池田が振り返る。
「仲間と連絡を取り合いながら、1カ月以上、ずっと家で自主練を続けていました。筋トレしたり、バッティングセンターに行ったり、走り込み、素振り……あまり先を見ずにやっていました。先を考えると夏の中止が頭をよぎってしまうので。今を頑張るんだという意識で」
それでも気持ちを切らす仲間は誰一人いなかった、と池田は言う。
「僕たちはとにかく野球が上手くなりたい、という気持ちが強かった代だと思います。やらされるというより、自分で足りないところを見つけて、どういう練習をすればよいのか互いに聞いたり。メンバーやメンバー外という隔たりも全く無く、みんなで高めあいながら気持ちを落とさずにやれた」
彼らの学年を振り返るとき、関係者が口を揃えて話すのが「野球が好きな代」という言葉だ。
現野球部監督で、当時コーチを務めていた多田は、関本や池田、大西らがいるクラスの担任を1年から3年間、務めた。
「休み時間や掃除の時間に『何の話してるんかな』と少し聞いてたら、だいたい野球の話。『昨日掃除サボってたから打てんかったやろ?』とか『昨日のあのバッティングやけど』とか言いながら、いつも野球につなげた話をしてるんです。結構やんちゃな子もいて、『ちょっと部屋来い!』と呼んで怒ったりしても、グラウンドへ行ったら、さっき怒ったこと忘れたの? というくらいに元気一杯に練習して、合間には『先生ここなんですけど……』って聞いて来たり。愛嬌もあってね。今まで僕が教員として見てきた中でも、特に野球好きの子が多く、仲が良かった学年だと思います」
「僕らの代のチーム、どう思います?」
また、トレーナーの平嶋はこんな逸話を明かしてくれた。2019年夏の甲子園、星稜との決勝戦に臨む前日の夜のことだ。