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藤井聡太21歳「八冠を意識することはありません」と語る“究極の目標”…豊島将之33歳との王座戦激闘後、2人が驚いた“幻の一手”とは 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2023/08/06 11:02

藤井聡太21歳「八冠を意識することはありません」と語る“究極の目標”…豊島将之33歳との王座戦激闘後、2人が驚いた“幻の一手”とは<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

王座戦挑戦者となった藤井聡太七冠。「八冠全制覇」なるかとともに、将棋の真理を突き詰める姿に注目したい

 第2局でも藤井がずっと苦しかったが、終盤の土壇場で豊島の疑問手に乗じ、驚異の終盤力を発揮して逆転勝ちを果たした。ある関係者は「鉄道に乗って《鉄分》を摂ったのがよかったんですかね」と冗談で言った。

 それはともかくとして、王位戦第2局の結果を境として、勝負の潮目と両者の関係が変わったのだ。藤井は第3局以降に3連勝し、王位戦で初防衛した。

 それ以降に両者が対戦したタイトル戦では、下記のように一方的な戦績となった。

 藤井王位が豊島叡王に挑戦した2021年の叡王戦五番勝負で、藤井は3勝2敗で奪取。藤井三冠が豊島竜王に挑戦した2021年の竜王戦七番勝負で、藤井は4連勝で奪取。藤井王位に豊島九段が挑戦した2022年の王位戦七番勝負で、藤井は4勝1敗で防衛。豊島の実力が落ちたわけではなく、藤井が驚異的に進化したとしか思えない。

王座戦挑決では初めて「雁木」の戦型に

 過去10局の藤井-豊島戦の戦型は、いずれも「角換わり」だった。

 王座戦挑戦者決定戦は藤井が先手番となり、角換わりが予想される出だしとなった。しかし豊島は角筋を開けず、「雁木(がんぎ)」の駒組みを築いた。戦前からの予定だったようだ。藤井も同種の駒組みに進め、腰掛け銀から右四間飛車で攻勢の構えをとった。

 お互いに様子をうかがう序盤で、藤井は6筋・1筋・3筋の歩を続けて突いて先に動いた。豊島も8筋の歩を突き捨てて応戦した。そして、4筋で双方の駒がぶつかり、藤井は角を捨てて銀2枚を得る「二枚換え」の成果を得た。通常は藤井の方が有利な交換だが、豊島に有力な反撃手があって、実際の形勢は難しい。

藤井が王座戦五番勝負について語ったこと

 藤井は自陣の銀取りにかまわず、▲5一飛成で敵陣に侵入した。その後、藤井の厳しい寄せに豊島がきわどくしのぐ攻防が続いた。藤井が寄せ切るかと思われたが、豊島は頑強に抵抗して中段に玉を逃がした。やがて豊島は馬、と金を駆使して左右挟撃の寄せにいった。双方にミスがあって、形勢はもつれていた。

 藤井の▲6七桂の王手に、豊島は△6五玉と逃げたが、結果的に敗着となった。△5四玉と逃げれば難解ながら後手に分があったという。ただ直後に▲3四竜の王手が生じて考えにくい。ちなみに△5四玉は、将棋ソフトが指摘した手で、両者は終局後に聞かされて驚いていた。

 本局は159手に及ぶ大激闘の末に、藤井が勝った。両者は持ち時間の5時間を使い切り、1手60秒の秒読みが50手以上も続いた。

 藤井竜王・名人は終局後の記者会見で、永瀬王座との五番勝負について、次のように語った。

【次ページ】 藤井が王座戦五番勝負について語ったこと

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