濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「やれよ!」悪質ブーイングも…当事者が語った堀口vs神龍“25秒ノーコンテスト”の一部始終とは?「無謀な試合続行」を求める観客はなぜ生まれたか
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2023/08/01 17:03
堀口の指が神龍の右目に入る瞬間。25秒のノーコンテストととなった
自分の右側、つまり堀口の左の攻撃が見えない。たとえばサイドから角度をつけたジャブ、左フック、あるいは左ハイキック。堀口はただでさえ強敵なのに、その状態で勝てるわけがない。数少ないチャンスにかけて「見えます」と主張し、ドクターをごまかすことができたとしても、より深刻なダメージを負う可能性がある。
神龍に降り注いだブーイング「やれよ!」
神龍は当然のことを言い、当然のこととして試合は終わった。残念な結果だが、そうするしかない。だがこの時、彼は客席から降り注ぐ声を聞いた。ブーイング、さらには「やれよ!」というヤジ。
「(自分は)とんでもない判断をしちゃったんだなと。それで“やらせてください”と言ったんですけど、もう(裁定は)変えられないということでした」
神龍は試合直後の率直な心境として、こんなことも言っている。
「続けなくちゃプロじゃないなと思いました」
「プロとして、ここは穴をあけちゃいけなかった」
また神龍によると、彼の右目は(時間の経過とともに徐々に見えるようになってきたが)角膜が傷ついており、コメント後に病院に行くとのことだった。そんな状態で試合が続けられるわけがない。しかし若い神龍は、心ない観客の声に反応して「続けなくては」と思わされてしまった。
一方、堀口はSNSで謝罪。インタビュースペースでは落ち着いて「本当に見えないのであればやるべきではないです。プロフェッショナルなので、戦績はずっと残りますから」とコメントしている。
「無謀な試合続行」よりも大切なこと
手負いの状態で試合を続けて、それで負けても戦績表の「●」は残る。そんなリスクをあえて取る必要はないということだ。神龍の(最初の)判断と同じである。興味深いのは、堀口と神龍どちらも「プロ」という言葉を使っていたこと。そしてプロとしてあるべき姿の捉え方が、2人は真逆だった。
神龍は、どんな状態であっても試合を続けるのがプロだと考えた。観客をがっかりさせてはいけないと。もしかすると、それは彼がプロレスファンであることと関係があるのかもしれない。“Show must go on”がプロレスの根底にある思考だ。
対して堀口は、プロだからこそ結果を大事にし、無謀な試合続行をするべきではないと受け止めた。おそらく、どちらも正しいのだ。堀口にも神龍の気持ちは分かる。逆の立場だったらどうかと問われ、堀口はこう答えている。
「自分はやりますね、アホなんで(笑)」
アホなことかもしれないが、試合を続けたい。やってきた練習を無駄にしたくない。少しでも勝つ可能性があるならやらせてほしい。それがファイターの心理なのだろう。だが堀口は、それは神龍が非難されるべきだという意味ではないと付け加えた。