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朝倉未来の衝撃タップアウト負けは「ただただケラモフが強すぎた」…“地味な選手”が大舞台で示した「ハリトーノフ級の危険な闘争本能」とは
posted2023/08/05 17:02
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
いったい誰がこんな衝撃的な結末を予想していただろうか。『超RIZIN.2』(7月30日・さいたまスーパーアリーナ)のメインイベントに組まれた、朝倉未来とヴガール・ケラモフによるRIZINフェザー級王座決定戦だ。
奇しくも朝倉と同い年である31歳のアゼルバイジャン人は、試合開始直後から一方的に攻め続け、最後はチョークによってタップを奪った。その間、わずか161秒。朝倉の戴冠に期待した観客は、眼前の衝撃を呑み込めずにいた気がしてならない。「圧倒的な現実を突きつけられる」という格闘技の醍醐味が、場内を完全に支配していた。
会見のムードは「朝倉兄弟の前祝い」だったが…
5月27日、東京都内で行なわれた公開記者会見。事前に場所は公表されていなかったにもかかわらず、多くの道行く人々がステージに押し寄せる中、彼らの視線は朝倉だけに注がれているように見えた。あのとき、ケラモフについて知る者はどれほどいたのだろうか。
「コーカサスの雷(いかずち)」というニックネームを読み上げられても、その地方がどこに存在するのか、知る者は少ないように思われた。「アゼルバイジャン」という出身国の説明を受けても、どんな国なのかイメージできる者さえほとんどいなかったのではないか。この時点でのケラモフは、ライトな格闘技ファンの目に「朝倉と空位の王座を争う、どことなく地味めの選手」としか映っていなかった。
過去にさまざまな団体を渡り歩き11連勝を記録したといっても、公開記者会見という舞台でその事実を気に留めた人がいたとは思えない。しかも、この会見が行なわれたときにはまだ朝倉未来の弟・朝倉海も出場予定(のちに練習中の負傷により欠場)で、元Bellatorバンタム級王者のフアン・アーチュレッタとRIZINバンタム級王座を争うことになっていた。
弟の方はリモート出演だったが、会見は朝倉兄弟の同日戴冠を前祝いするような空気に支配されていた。その空気に後押しされ、未来は不敵な視線をケラモフに投げかけていた。檻の中に入れられた蛙をいつ呑み込むか、そのタイミングをじっと待つ蛇のように。このときは同じ階級にもかかわらず、朝倉の方が大きく見えた。