濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“衝撃のチョーク”に朝倉未来の顔が歪んだ…ワンサイドの“ギブアップ負け”はなぜ起きたのか? RIZINケラモフ戦後の「目標? ないです」発言の真意
posted2023/07/31 11:54
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
「強すぎるよ……」
プレスルームで関係者が絶句していた。その通りだと頷くしかない。アゼルバイジャンからやってきたヴガール・ケラモフは、確かに強すぎた。相手が朝倉未来であっても、そう感じさせたのだから恐ろしい。
ケラモフと朝倉が対戦したのは、7月30日の『超RIZIN.2』(さいたまスーパーアリーナ)。日本格闘技界最大のイベントであるRIZINの中でも、とりわけスペシャルな位置付けの大会だ。チケットはあっという間に完売。当日は2万4264人の観衆が詰めかけた。2人の対戦=RIZINフェザー級王座決定戦は、この大会のメインイベントだった。
朝倉は、言うまでもなく現在の日本を代表する格闘家の1人だ。ケンカ三昧で少年院に入った過去から格闘技で出世街道に乗った。YouTuberとしても大成功を収め、さらに自身発案・プロデュースの“1分間格闘技”BreakingDownもヒットした。今回はそんな朝倉が、初めてRIZINのチャンピオンベルトを巻くチャンスだった。
ケラモフとの試合を望んだのは、他ならぬ朝倉だった
6月の札幌大会、フェザー級王座防衛戦に臨んだクレベル・コイケが規定体重(66kg)をオーバーし、タイトル剥奪に。すでに決定していた朝倉vsケラモフ戦にベルトがかけられることとなった。ベルトを巻いた上で、かつて一本負けを喫したクレベルに借りを返す。それが朝倉にとってのベストシナリオだった。その先、UFCを視野に入れてもいた。リベンジを目指すというより最強になりたいと、試合に先立つ公開練習で朝倉は言った。
一方のケラモフは4年半で11連勝をマークしたこともあるアグレッシブファイター。RIZINでも4勝1敗の好成績で朝倉戦を実現させた。グラウンドのパンチ、あるいはサブミッション(絞め技、関節技)とフィニッシュ力が強いタイプで、朝倉にとってもかなり厄介な相手に思えた。
ケラモフとの試合を望んだのは、他ならぬ朝倉だった。RIZINの榊原信行CEOに言わせると、朝倉はプロデューサー目線でものを考えるタイプ。自分が勝てそうかどうかより、観客から見て面白そうか、ウケるかどうかを重視するという。
観客から見て面白そうな試合とは、つまりどちらが勝つか分からない顔合わせだ。朝倉から見れば、自分が負けるかもしれない、「あの相手はヤバい、大丈夫か」というマッチメイク。ケラモフ戦は、だから朝倉のセンスがマイナスに作用してしまったことになる。