「対局が終わった夜、河野さんたちとテスト撮影で〈鯛の被り物、こんな感じで撮りましょう～〉と打ち合わせていたところ、お風呂に入ろうとした藤井先生が偶然通りかかって、その様子をご覧になっちゃったんです。〈あ、これバレちゃったかな〉と思ったんですが、翌日の撮影本番に鯛の被り物をお渡しすると〈あ、釣られる鯛の方なんですか？〉と藤井先生が言っていました。まさか自分が被るとは思っていなかったようで（笑）。ただ実際に被ってもらうと、とてもいい表情でこちらがホッコリするほどでした」

撮影に使用した鯛の被り物。撮影に関する小道具は通販で購入か、現地で調達することもあるという　©Tadashi Hosoda

テディベアのようにペタンとお座りに

　藤山さんは「藤井先生の表情を含めて構想がすべて詰まった1枚でした」と思い出深い撮影だったと語る。その一方で2022年に入社するまで、将棋に触れたことはほぼなかった藤山さんにとって、自分に年齢が近い藤井は〈とにかく将棋に集中している〉というイメージだったという。しかし対局中を含めて長時間見つめてみると、少しずつ違う印象を持っていったようだ。

「対局中に読んでいる姿をカメラの先から見ると〈本当にすごい人たちなのだな〉と思うと同時に、対局の優劣によって充実した表情、苦しそうな顔をされていることに気づきました。その顔に一人の人間であることを感じました。あと、先ほどのスサノオノミコトの撮影が終わった瞬間、それこそテディベアのようにペタンとお座りになったんです。将棋の強さ、礼儀正しさとともに、ホッとしたような姿には等身大の20歳を感じましたね」

幻のショット

　そんな藤井が王将位を防衛したのは第6局のこと。“防衛”に引っ掛けてボクシンググローブを天高くかざす藤井の姿が翌日のスポニチ1面を飾ったが……「実は、羽生先生が勝利した際には色々なプランがあったんです」と河野さんが明かす。

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