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伊良部秀輝“メディアが一斉に消えた”ヤンキース放出後の激変「誰かがそばにいれば…」“日本人メジャーリーガー”激増のウラに伊良部がいた 

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水次祥子

水次祥子Shoko Mizutsugi

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photograph byKazuaki Nishiyama

posted2023/07/06 11:03

伊良部秀輝“メディアが一斉に消えた”ヤンキース放出後の激変「誰かがそばにいれば…」“日本人メジャーリーガー”激増のウラに伊良部がいた<Number Web> photograph by Kazuaki Nishiyama

かつてヤンキースほかメジャーで活躍した伊良部秀輝

 そして2011年の米国現地時間7月27日、伊良部がロサンゼルスの自宅ベッドルームの中で亡くなっているのが発見された。当時の報道によると、首には直径1センチほどの太さの白いロープが巻きついており、駆けつけた警察によって死後数日が経っていたことが確認されている。遺書などは何も見つからなかったが、地元警察によって自死と発表された。42歳だった。

先にこの世を去っていた「2人」

 誰かがもっとそばにいれば、あるいは違う状況になっていただろうかと思うことがある。大喧嘩を経てよき理解者になっていたサンケイスポーツの宮川達也記者は、伊良部より4年も早く、若くして他界してしまっていた。親交があったヤンキースのスタインブレナー・オーナーが亡くなったのは、伊良部よりちょうど1年早い2010年7月だった。

 1999年に旧ヤンキースタジアムの地下通路で起きた「あの出来事」の当事者の中で生き残っているのは、伊良部の通訳だったジョージ・ローズ氏と筆者だけになった。ローズ氏は今もヤンキースの職員として仕事を続けており、取材に行くとたまに球場で顔を合わせることがある。何も言葉には出さないが伊良部秀輝という荒くれ者で繊細な投手がいたことに思いを馳せる瞬間だ。

伊良部秀輝が遺したもの

 メジャーでは苦しいことが多かっただろうが、輝いた瞬間もあった。

 2年目の1998年はメジャー自己最多の13勝(9敗)をマークし、5月には6試合の登板で4勝1敗、防御率1.44、29奪三振で野茂英雄に続く日本人2人目の月間最優秀投手に選出。3年目の翌年7月にも4勝0敗、防御率2.64、41奪三振で2度目の月間最優秀投手に選ばれているが、このシーズンはア・リーグに移って2季目のペドロ・マルティネス(当時レッドソックス)が6カ月中4度も月間最優秀投手に選ばれるほどの破竹の勢いであり、それを抑えて選出されたのは大変なことだった。

 そして、あのメジャー移籍騒動がきっかけとなりポスティングシステムという日本からメジャーへの移籍ルールが作られた。のちの日本人メジャーリーガーたちにとって、大きな役割を果たしたという事実は永遠に残り続ける。

 今年は伊良部の13回忌になる。かかわった人たちとファンの心に、その姿が再び甦ってくれればと思う。

 

〈追記〉
伊良部秀輝の通訳を務めたジョージ・ローズ氏は、2023年8月、57歳で亡くなった。旧ヤンキースタジアムの地下通路で起きた「あの出来事」を知る人は、筆者ただ一人になった。
日本滞在経験もあったローズ氏に、謹んで追悼の意を表します。

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26年前、日米騒然のメジャー挑戦…伊良部秀輝とは何者だったのか?「記者の名刺を目の前で破り捨て…」私が伊良部から“呼び出された日”

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