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「まるで太ったヒキガエルだ」伊良部秀輝を名物オーナーが口撃…2人の話には続きがあった「ふてぶてしくも危うい」私が見た“悪童と呼ばれた男”
text by
水次祥子Shoko Mizutsugi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/07/06 11:02
1997年、ヤンキース入団時の伊良部秀輝。右は当時オーナーのジョージ・スタインブレナー氏
同オーナーは当時「ボス」と呼ばれ、周囲から恐れられる存在だった。ワンマンで、欲しい選手は必ず手に入れる。伊良部のときもそうで「日本のノーラン・ライアンをぜひとも手に入れたい」と動いたことが、前代未聞の三角トレード実現につながったと思う。それだけに、ボスの伊良部への思い入れは強かった。デビュー当初に結果が出なくても、伊良部をかばい、擁護したこともある。
名物オーナーとの「その後」
そのボスからの批判に、伊良部はずいぶんショックを受けたという。「なぜ体重のことまでやり玉に上げられるのか」と不満をぶちまけ、多くの関係者を巻き込んでてんやわんやとなった。最終的にはトーリ監督の部屋で伊良部と当時の投手コーチとボスも交えて話し合いが行われ、騒ぎは収まった。
この出来事も、結果的に伊良部と同オーナーの関係を深めることになったようだった。米国独立記念日で同オーナーの誕生日でもある7月4日、伊良部はボスに誕生日のプレゼントを贈ったという。それは機械仕掛けのヒキガエルの置物で、ボタンを押すとケロケロと大きな鳴き声が出るというものだった。ボスは生涯、その贈り物を自分のオフィスに大事に飾っていたという。
同僚が語っていた“レストランの事件”
ヤンキースのチーム内では孤立していたと報じられたこともあったが、実際は先発ローテ仲間で6歳年上の先輩投手、デービッド・コーンとデービッド・ウェルズに可愛がられ、遠征先では試合後によく連れ立って夕飯に出掛けていたという。引退後に解説者として活躍しているコーンが、後に米メディアに思い出話を語っているが、あるときシカゴに遠征したときレストランに出掛けていき、酒の席でのおふざけとして伊良部のマウンド上での態度などにダメ出しをして、先輩2人でからかったことがあったそうだ。
すると、何杯かお酒が入った伊良部は酔った勢いだったのか、突然ぶちギレたという。ホールの真ん中で仁王立ちになり、自分のシャツをバリっと破って脱ぎ捨てた。ボタンが辺りに飛び散り、それは衝撃的な光景だったという。ふてぶてしい選手だった一方で、当時から繊細なメンタルと危うさを持った人物だったことを周囲はわかっていた。
「イラブフィーバー」に沸き立った1997年夏の入団から2年、あの熱狂はニューヨークから消えていた。
〈つづく〉
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