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[波乱万丈のキャリア]ダルビッシュ有「頂点に最も近づいて」
posted2023/07/07 09:03
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph by
Yukihito Taguchi
渡米から12年、これまで2度、日本人投手初戴冠にあと一歩まで迫った。真摯な研究姿勢で鍛え、磨き上げてきた投球術は今やメジャートップクラス。未到のタイトル獲得の可能性は、十分にある。
6月9日、パドレスのダルビッシュ有は敵地デンバーでのロッキーズ戦でメジャー通算100勝に到達した。野茂英雄以来、日本人2人目の快挙だ。ちょうど100球を投げて5回1/3を4失点と粘投した後、クラブハウスで仲間たちから洗濯物用のカゴに入れられ、ビールで手荒い祝福を受けていた。
'12年にレンジャーズでメジャーデビューし、12シーズン目を迎える。100勝達成直後の会見でデビュー当時からの変化を問われ、噛みしめるように言った。
「ひとつ、いい球があればずっと活躍できるかといったらそうじゃなかったり、ずっとコマンド(制球力)が良ければ勝てるかといったら、そうじゃない。(打者との)いたちごっこのスパンがどんどん早くなっていく。アジャストしていくのはとても難しい。でも、楽しい」
6月3日のカブス戦、鈴木誠也との初対戦では「これがあなたのウィークネス(弱点)です」というメッセージを投球で送った。第1打席、初球は横に大きく滑るスイーパーが外れ、そこからスライダーとツーシームでカウントを優位にした。いずれも外角低めのゾーンのギリギリに変化させて強烈な残像を植え付けると、最後はストレート。94.3マイル(約152km)の外寄り高めを強振した鈴木のバットは、あえなくボールの下を通過した。同じコースに球速、軌道、高さの異なる球種を投げ込んで三振を奪った配球は、前日のブルペンで描像済みだったという。