将棋PRESSBACK NUMBER
「誤算があった」藤井聡太20歳が“王座19期連続獲得”羽生善治52歳を「刀折れ矢尽きる」状態に…大名人・大山康晴のような「受けつぶし」
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/29 17:05
王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝で対局した藤井聡太竜王・名人と羽生善治九段
羽生は一歩得したが、目標にされかねないので以後の指し方は難しく、銀を引き戻す展開となった。
藤井-羽生戦は注目の大一番とあって、ABEMA、囲碁将棋プラスなどでライブ映像が配信された。各地では大盤解説会が開かれた。また、テレビ各局のニュースや情報番組で取り上げられた。タイトル戦さながらの盛り上がりだった。ネット上では「藤井の八冠か羽生の100期か」という将棋ファンの思いが交錯し、それぞれの勝利を願う声は相半ばしていた。
藤井いわく「誤算があって苦しかった」
藤井が中盤で▲4五同桂と跳ねて攻めると、羽生は6筋の銀を受けに利かした。実は、羽生の最も好きな駒は銀で、本局では右銀が縦横無尽に動いた。
その後、藤井は敵陣に角を打って馬を作り、羽生は△5五角と中段に打って二歩得した。馬と角の存在と動きが焦点になっていた。
夕食休憩後に羽生の65分の長考による一連の順で、局面が大きく動いた。△7七角成と切って銀を取り、△3八銀と飛車金取りに打った。△4七銀不成で金を取り、△5八銀成で相手玉に迫っていった。それに対して藤井は飛車を逃げて歩で攻め合った。「誤算があって苦しい展開になった」と終局後に語っていたが――実際の形勢は微差だった。
羽生の懸命の攻め立てを受けきる藤井
羽生は藤井の飛車と馬の攻めに対して△6三歩と打って受けたが、解説を務めた木村九段から終局後に飛車・馬取りに打つ△7四金を指摘された。以下は激しい攻め合いとなり、羽生は十分に戦えたようだ。木村と指摘した手との違いが、本局の勝負の明暗を分けた。
藤井は本譜で4筋に馬を引いて盤石の形となった。中段の馬は、金銀3枚分の守り駒に相当する。羽生が懸命に攻め立てると、藤井に先回りして受けられ、攻めが細くなっていった。持ち時間(各5時間)を使い切って頑張ったが「刀折れ矢尽きる」状態になった。
そして21時21分、藤井が123手で勝った。
それにしても藤井の一連の「受けつぶし」の指し方は、受けの達人だった大山康晴十五世名人の将棋を彷彿させるもので、終盤で羽生の攻めをしっかり抑え込んだ「横綱将棋」の内容でもあった。羽生九段は藤井に敗れ、100期への道はまたも途切れた。
藤井竜王・名人は王座戦で挑戦者決定戦に勝ち進み、準決勝の渡辺九段と豊島九段の対局の勝者と対戦する。「八冠制覇」に向けて新たに前進した。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。